検索

新型「MAZDA CX-5」で生まれた共創の輪。日本製鉄とマツダが挑んだ新しいクルマづくり

YouTube YouTube
×

[8分]

新型「MAZDA CX-5」のクルマづくりでこれまでの受発注の枠を超えて共創に挑んだ、鉄鋼メーカーの日本製鉄とマツダ。共創活動では職位にかかわらず、同じ目標に向かうチームとして互いを「日鉄さん」「マツダさん」と呼び合うことを大切にしてきました。両社が開発の初期段階から課題を共有し、クルマとしてどんな価値を共に生み出せるのかを考える。そこに、今回の取り組みの新しさがありました。

目指したのは、軽量化やコスト低減だけではありません。走りや高い安全性といったクルマとしての価値を、どうお客さまに届けるか。新型CX-5のクルマづくりで生まれた挑戦の軌跡と、サプライチェーン全体へ広がる共創の可能性を、編集部が取材しました。

「一緒に良いクルマをつくりませんか?」開発初期から共に考える

日本製鉄九州製鉄所八幡地区にて開催された新型CX-5お披露目会。共創の象徴であるホワイトボデーに日本製鉄とマツダの役員がサインすると、会場から大きな歓声が上がり、両社のメンバーが新たなクルマの誕生を共に祝いました。

日本のものづくりを支えてきた、鉄の街、八幡。その歴史ある場所で新型CX-5のお披露目会が行われ、会場にはマツダと日本製鉄の実務メンバー、そして両社の役員も集まり、共創から生まれた新たなクルマの誕生の喜びを共に分かち合いました。

編集部が見たのは、完成車のお披露目を超えた、両社のメンバーのものづくりへの誇りと熱量でした。

 

今回話を聞いたのは、共創活動を立ち上げたマツダの資材購買部の渋谷康裕、量産設備導入を担う生産技術の中野伸哉、車体設計と軽量化の知見を生かして開発を推進した若林充、そして日本製鉄側の実務を牽引した須田秀昭さんです。

それぞれの立場から一つの目標に向き合った4人の言葉を通して、この共創がどのように始まり、何を変えていったのかをひもときます。

渋谷:

これまでもマツダは、走る歓びをお客さまにお届けするため、高い安全性を確保しながら車体の軽量化を進めてきました。走る歓びを進化させると同時に、お客さまにお求めやすい価格を実現するための原価低減も必要不可欠でした。

 

しかし、カーボンニュートラルへの対応等を背景に、自動車業界と鉄鋼業界を取り巻く環境は大きく変化しており、従来の延長線上での原価低減策だけでは、抜本的にコストを下げることが難しくなっていました。これが、今回の共創活動の出発点です。

資材購買部部長 渋谷康裕。2022年の共創活動当時、資材グループのマネージャーとして鉄鋼材料の調達を担当。調達環境が大きく変化するなか、鋼板ごとに発注先を決める従来の進め方から発想を広げ、日本製鉄とマツダが開発初期から知見を持ち寄る共創活動を提案。両社の関係部門と連携し、活動の立ち上げを担った。

狙いとする性能を実現しながら、原価低減にもつなげるにはどうしたら良いか。毎週のようにチームで議論を重ねましたが、なかなか答えは見つかりません。そんなある日、ふと思ったんです。

これまでの考え方から発想を広げ、長年にわたって技術交流を重ねてきた日鉄さんと、クルマ一台全体で原価低減を考えられないだろうかと。

 

鉄を熟知されている日鉄さんの知見をいただいてクルマづくりに反映できれば、従来のようにマツダが使う鋼板の種類を指定するよりも、コストを抑えながらより軽い車体を実現できるかもしれない。

 

次の新型CX-5では、開発段階から一緒に検討することで、マツダは鉄に関する知見を深めることができ、日鉄さんはクルマづくりへの理解をより深められる。互いの専門性を高め合うことで、両社にとって真のWin-Winの関係を築けるのではないかと考えました。

中野:

この話をはじめて聞いたとき、生産技術の立場としては正直なところ、メリットよりも困ることの方が多いのではと思いました。最終的にはコストを下げなければなりませんが、その要素はどこにあるんだろう、と。

車体技術部の中野伸哉。開発部門とともに車両構造と部品形状を造り込みながら、設計された車体を品質とコストを両立させ安定的に生産できる形へとつなげる生産技術を担当。今回の共創では、日本製鉄と共に新たな材料や工法の可能性を検討し、量産に向けた課題解決に取り組んだ。

若林:

私も中野さんと同じ印象でした。材料メーカーさんを絞るということは、設計の選択肢が減るということになるので、日鉄さん以外の材料が使えなくなることを、車体が重くなる要因にはしたくない、というのが最初の気持ちでしたね。

クルマ開発本部の若林充。車体設計と軽量化技術開発の経験を生かし、日本製鉄とマツダの技術者をつなぐ開発側の推進役を担当。両社が開発初期から課題を共有し、それぞれの知見を生かして新型CX-5の開発に取り組める環境づくりを担った。

渋谷:

社内の反応も似たようなものでした。具体的に何をどう進めていけばいいのか?そのときはまだ答えを持っていませんでしたが、日鉄さんとは前身である新日鐵住金さん、さらにその前身の新日鉄さんや住友金属工業さんの時代から40年以上にわたる関係があり、技術懇談会もつづけていました。鉄の専門家である日鉄さんと自動車メーカーであるマツダの両社が、企画段階から知見を合わせることができれば、一緒により良い技術開発ができ、もっと最適な車体構造が実現できるのではという予感がありました。それを次の新型CX-5で実現しよう、と。

 

しかしこれは全く新しいアプローチでした。従来は、自動車メーカーであるマツダが車体構造や部品、板厚を決定して図面に落とし込み、全ての鋼板の見積もりを行って発注先を決めていたプロセスでしたが、企画の初期段階から日本製鉄さんと協働で車体構造の最適化に取り組む。進め方そのものも大きく変える取り組みです。

サプライチェーン構造改革でお客様価値につながる共創へ
サプライチェーン構造改革でお客様価値につながる共創へ

この方針について社内の役員に相談したところ、マツダとしてもサプライチェーン構造変革を本格的に推進していこうとしていた時期と重なっていたこともあり、「面白いアイデアだ、すぐにやろう」と、共創活動に対して力強い後押しをもらうことができました。

軽く、強く、そして気持ちのいい走りを目指して

中野:

日鉄さんはたくさんの技術的なネタをお持ちであることは我々も認識していましたが、車体の仕様を決めてから材料を発注するという従来の進め方では、その技術を量産まで織り込むには時間が足りなかったり、工場の生産設備を変える必要があったりと、時間的にも予算的にも採用が難しかったのがこれまでの状況でした。

 

でも今回は、企画段階から一緒に取り組むことを決め、「重量・コストを下げるなら、この技術を入れよう」という話を最初から両社で議論できたので、技術開発が完了するまでには生産側の体制も整う算段が立ちました。

若林:

今回の新型CX-5には、日鉄さんが開発した世界初の高強度鋼板を、衝突時の衝撃を受け止める重要部材であるバンパーレインに採用しています。これも共創活動があったからこそ実現したものなのですが、この採用に至るまでの間、日鉄さんはさまざまな技術を包み隠さずに提示してくださいましたし、マツダの設計者も「この技術でやるんだ!」というモチベーションで開発に挑むことができたことは、非常に大きかったと思います。

開発初期から両社が一つのチームとなり材料の特性を生かす設計と製造技術を磨き上げた

※関連情報:新型「MAZDA CX-5」が米国IIHS安全性能評価で最高評価を獲得 MAZDA NEWSROOMマツダ、新型「MAZDA CX-5」が米国IIHS安全性能評価で最高評価を獲得|ニュースリリース

今回の共創は、マツダのものづくりの考え方をさらに広げただけではありません。日本製鉄もまた、クルマづくりの初期段階から関わることで、これまでとは異なる視点や手応えを得ていました。この共創活動の実務を担った日本製鉄の須田さんは、今回の取り組みをどう受け止めていたのでしょうか。

須田(日本製鉄):

私がこの話を最初に聞いたときは、率直に言って「本当にそんなことができるのか」という驚きがありました。こうした共創活動には以前から取り組みたいと考えていましたが、契約や守秘などの制約もあり、なかなか踏み出せずにいました。そうしたなかで、今回マツダさんから門戸を開いていただけたことが、大きな転機になったと思います。

日本製鉄株式会社 中国支社部長 須田秀昭。日本製鉄側の実務推進を担い、社内の技術・研究部門とマツダをつなぐ役割を担当。材料、構造、工法からサプライチェーン改善まで、部門を越えた共創活動を支えた。

開発中のクルマを、まだ企画段階のタイミングで取引先である私たちに開示いただくこと自体、これまでにはなかったことです。従来の枠組みを超えて「共に取り組もう」と考えてくださったことに、大きな意義を感じています。今回の共創活動は、部品単位や特定の技術テーマに限定したものではありません。「一緒に良いクルマをつくりませんか?」から始まり、軽量化やコスト低減といった定量目標だけでなく、共創活動の理念を共有し、両社にとって真のWin-Winにつながる活動として進めていきました。

両社にとって未知の挑戦だったからこそ、重要になったのは、最初に何を目指すのかを明確にすることでした。単なる技術検討やコスト低減活動に終わらせるのではなく、クルマとしての価値をどう高めるのか。その目的を共有するところから、共創活動は本格的に動き出しました。

受発注の関係を超え、同じ目標に挑むチームへ

渋谷:

共創活動を始めるにあたり、まず両社で企画書を作成しました。その中で活動理念として掲げたのが、「志を共有し、業界初の試みに挑戦!」という言葉です。最初に共通の理念を持ち、ともに同じ方向を向いてスタートできたことも、この共創活動ならではだと思います。そこから具体的に達成すべき目標と実現したいことを話し合い、定量目標としては「鋼材重量10%減の必達」と決めました。目指したのは軽量化やコスト低減だけではありません。軽量化とコストも両立させながら、その先にいるお客さまに喜んでいただけるクルマをどう実現するか。その共通の目標として、鋼材重量10%減を掲げました。決して簡単な目標ではありませんでしたが、両社で決めた目標だからこそ、最後までともにやり遂げようという強い思いで取り組むことができました。

中野:

どうやったら達成できるか、帳簿をつけて計算しましたね。本当に10%減を達成するには、この帳簿を現実にしないといけない。そんなスタートでした。

会社や部門、職位の垣根を越え、同じ目標に向き合った両社のメンバー。「できるかどうか」ではなく、「どうすれば実現できるか」を共に考える関係が、新たな挑戦を支えた。

渋谷:

お取引先さまとOEMという立場を超え、志や目的を共有した一つのチームとして課題に向き合うという姿勢をあらゆるところで大切にしました。そのために、会議のあり方や場づくりも含めて、両社メンバーの意識や共創の在り方そのものを変えたことも大きな転換点だったと思います。

 

象徴的だったのが、シニアマネジメントへの進捗報告の場です。両社が向かい合って座るのではなく、同じ机を囲み、同じ方向を向いて議論する形にしました。そうすることで、共通の技術課題と「鋼材重量10%減必達」という目標にともに向き合うのだという意識が自然と生まれ、「この高いハードルを両社一丸となって越えよう」というマインドセットができたと思います。

中野:

鋼材重量の削減に向けて、車体構造をどうするかの他にも、生産技術の点で日鉄さんからはさまざまな工法を提案いただきました。実は以前にも、金型やプレス機を見学させていただいたことはあったのですが、すごいとは思いつつも量産はできなさそうと、そこで終わっていました。でも今回は量産できるかどうかで判断するのではなく、10%減のために今の技術をどう活かすか、そのために何をしなければいけないのかという視点から課題を洗い出し、日鉄さん独自の工法を量産工程に組み込むかたちで進んでいきました。全員が「制約を一緒に乗り越えよう」という心意気だったと思います。

若林:

開発としても、これまで挑戦したいと思いながら実現できなかったことや、自社の技術や設備だけでは難しかったことがたくさんあったので、日鉄さんと課題を一つひとつ乗り越えながら目標達成に挑むことができました。そうした成功体験を積み重ねたことで、以前なら躊躇していたようなアイデアや一見すると現実離れした発想であっても、「どうすれば実現できるかを一緒に考えよう」という風土が社内にも育まれてきたと感じています。それはきっと、日鉄さんが我々の橋渡しとなり、開発と生産技術をつないでくださったことが大きかったのだと思います。

須田(日本製鉄):

今回我々日鉄メンバーも、クルマの設計や開発プロセスに深く関わらせていただいたことで、どの段階でどのような提案をすれば良いか等、お客さまにとって本当に必要な提案、いわばマツダさんにとって役に立つ「生きた提案」につながる知見を得ることができました。従来は部品単位で材料を提案することが中心でしたが、今回は開発の初期段階から、材料だけでなく構造や工法についても一緒に検討し、軽量化やコスト低減に加えて、剛性や乗り心地など、お客さまが必要とする価値につながる技術開発に取り組むことができました。こうして得た知見は、今後の私たちの技術開発の進め方を変えていくきっかけにもなると考えています。

技術者が目を輝かせて開発に挑む姿に成長を実感しますし、それはつまり、技術の先にいらっしゃるお客さまの顔が見えてきたということだと思います。今回の共創活動では、サプライチェーン全体の最適化や効率化にも共同で取り組むことができ、各工程におけるムダやロスの削減を一緒に検討できたことは大きな価値だったと考えています。

 

新型CX-5のホワイトボデーを囲む、日本製鉄とマツダのメンバー。鉄とクルマ、それぞれの専門性を持ち寄り、材料、構造、工法の枠を越えて、より良いクルマづくりに挑んだ

制約の壁を越え、お客さま価値を共に創り出す

渋谷:

日鉄さんとの共創活動は、これからのマツダのものづくりを考える上で、大きなベンチマークとなる活動だと思っています。こういう活動が増えればお客さまに届けられる価値も、我々のクルマづくりそのものの力も高まり、会社の競争力向上にもつなげていくことができると思うので、今回のような取り組みを進化させて横にも広げていきたいですね。今回は、開発の初期段階から両社で共に取り組んだことによって、目標に掲げた鋼材重量10%減を達成し、軽量化やコスト低減が実現でき、大きな成果を生むことができました。しかし、数字以上に大きかったのは、その成果をお客さまに喜んでいただけるクルマづくりにつなげるために、両社が一つのチームとして取り組めたこと、日鉄さんとの信頼関係をあらゆる階層で深めることができたことが一番だったと僕は思っています。「一緒にクルマをつくりましたよね」って真顔で言えることが嬉しいです。

中野:

日鉄さんは、材料開発だけでなく工法やソフト関係にも優れた技術をお持ちなので、そこへマツダが培ってきたお客さまに喜んでいただけるためのクルマづくりの視点を重ね合わせることができれば、今までにないクルマづくりが実現できるのではないかと思います。

今回の共創活動を通して、これまでは知らず知らずのうちに量産できるかどうかという前提に引っ張られてしまい、自分が設けた制約で思考を縛っていたことに気づかされました。私が思ったので、メンバーも感じていたのではないでしょうか。でもそうではなくて、もっと自由に、発想を膨らませないといけないなって。

渋谷:

そういった思考の変化そのものが、共創活動の成果かもしれないですね。

中野:

困りごとや考えていることを、お互いに全部正直に出してみんなで解決していく。そうすることで、結果的により良い答えにたどり着けると感じました。ほんとうに、よい関係性、よい気づきが得られた活動でした。

若林:

日本のものづくりとしてはやはり、海外勢が脅威になると思います。だからこそ業界の垣根を超え、共創しながら、今後もさまざまなお取引さまとの関係性を強固にしながら、クルマづくりができたらと思っています。仲間になってくださる方をどんどん増やしていきたいですね。

新型CX-5を囲む、日本製鉄とマツダのメンバー。一台のクルマを共につくり上げた経験が、新たな仲間と挑む、次のクルマづくりへとつながっていく

編集後記

 

今回の取材で印象的だったのは、共創という言葉が単なるスローガンではなく、現場の一つひとつの判断や行動にまで落とし込まれていたことです。開発初期から課題を共有し、できない理由ではなくどうすれば実現できるかを一緒に考える。そこには、従来の受発注関係を超えた新しいものづくりの関係性がありました。

 

お取引先さまと志を共有し、サプライチェーン全体でお客さま価値を高めていく。新型CX-5で生まれた共創の輪は、これからのマツダのものづくりをさらに進化させていくはずです。