CX-80に搭載の安全技術DEAに、開発主査が込めた想い。自家用車に「副操縦士」のような安心感を


MAZDA CX-80
MAZDA CX-80

「大切な人を、安全に送り届けたい」。子どもの送り迎えの際、ふと車のハンドルを握る手に力が入る瞬間があります。仕事や育児に追われる日々のなか、疲れている自覚はあるけれど、どうしても車での移動が必要なとき。「もし運転中に居眠りや体調が悪くなってしまったら……」と不安を抱えながら運転している方も多いのではないでしょうか。

 

じつは、体調急変による事故は毎年250~300件程度発生しています*¹。この社会課題を解決すべく、マツダは、自動車技術で対策が可能なものについては、2040年までに「自社の新車が原因となる死亡事故ゼロ」を目指し、安全性能の向上に取り組んでいます。そんななか、安全技術「ドライバー異常時対応システム(DEA)」を搭載したSUV「MAZDA CX-60」を2022年9月に発売し、そしてこの度DEA搭載車第2弾となるSUV「MAZDA CX-80」を2024年10月に販売開始しました。

 

不慮の事故から大切な家族を守りたい。そんな気持ちにマツダはどう応えているのでしょうか? 昨年はじめて子を授かり命の大切さを痛感したMIRAI BASE編集部員が、同じく1児の母である編集者さんとともに、マツダR&Dセンター横浜を訪問。開発を担当したR&D戦略企画本部 開発戦略企画部 主査の栃岡孝宏(とちおか・たかひろ)に、DEAの開発に至った背景、想いを聞きました。

 

*1: 公益財団法人 交通事故総合分析センター「交通統計」引用


「副操縦士」のような安心感を目指したDEAって、どんなシステム?


R&D戦略企画本部 開発戦略企画部 主査 栃岡孝宏


編集者・コピーライターの原里実(はら・さとみ)さん。夫と1歳の子どもと3人暮らし。原さんも子どもが生まれてから、小さな子が巻き込まれる交通事故のニュースなどがとても身につまされるようになったといいます。「今日はマツダの最新安全技術が体験できると聞いて、楽しみにやって来ました」

DEAは「『副操縦士』がいるかのような安心感を目指す」というコンセプトをもとに開発されたシステム。ドライバーの状態をつねにモニタリングしながら、ドライバーが通常の運転をしているときは、いつでも対応できるようバックアップしています。

 

そして万が一ドライバーが眠気に襲われる、意識を失ってしまうなどの体調急変などの異常が起こった際、その状態を検知しドライバーの様子に合わせ運転支援を起動します 。

 

デモでは、最初は通常どおりに運転していたドライバー役が、気を失った「フリ」をしてDEAの運転支援機能を起動させ、そのときにドライバーの様子に合わせクルマがどのような動きをするのか、実演が行なわれました。

原:

あっ、ドライバーさんが気を失ってしまいました!


DEAがドライバーの体調急変の異常を検知し、アラーム音とともに、「ドライバー異常を検知しました。まもなく緊急停止します」というメッセージがモニターに表示されます。

原:

クルマが自動的に、車線の真ん中に戻っていきましたね。

ドライバーの異常を検知すると、運転支援システムが自動で起動。車線や車間の維持、衝突の回避または被害の軽減を支援するブレーキ制御を行ない、安全な走行状態の維持に寄与します。

 

万が一間違って作動してしまったときに備えて5秒間のバッファを設け、その間にドライバーからの反応が得られない場合には、運転ができないと判断し、緊急停車することを同乗者と周囲に知らせます。


この段階になると、周囲には大きな音でホーンが鳴り響きます。

原:

明らかに「異常事態」という雰囲気ですね。

そして、クルマは徐々に速度を落とし、停車に至りました。ホーン以外にも、外から見るとハザードやブレーキランプが点滅しています。後続車や歩行者など、周囲に異常を知らせることで、被害の軽減を図るためです。


完全停車したあとの車内

原:

ゆっくりと停止するので、怖くはないですね。

このあとは、自動で外部に緊急通報(マツダエマージェンシーコール)し、オペレーターと会話することができます。オペレーターが、必要に応じて緊急車両や車両を販売店に運ぶためのロードサービスの手配を行ないます。ロードサービスの手配まで行なっているのは、いま(2024年11月22日時点)日本の自動車メーカーではマツダだけ。

原:

動転しているなか、生身の人と会話ができるというのはいいですね。


デモでドライバー役を務めたのは、統合制御システム開発本部先進安全車両開発部 シニアエキスパートの松原敏雄(まつばら・としお)です。「気を失ったフリ」を2回行ないましたが、1回目はDEAが作動せず、2回目でようやく作動しました。

松原:

じつは、気を失ったフリをしてDEAの運転支援機能を起動させるのは、とても難しいんです。というのも、人は運転中にいつもまっすぐに前を向いているわけではありませんよね。DEAは「本当に気を失っている(=全身から脱力している)場合」のみを見抜いて運転支援機能が作動するよう、しっかりと学習しているんです。


統合制御システム開発本部 先進安全車両開発部 シニアエキスパート 松原敏雄

また、DEAによる運転支援機能は、同乗者が天井の「SOS」ボタンを押し、電動パーキングブレーキのスイッチを引き上げることで、手動で起動させることもできます。


DEAを手動で起動するためのSOSボタン

同乗者がDEAを手動で起動できる機能について、松原とともにDEAデモを行なった統合制御システム開発本部 先進安全車両開発部 エキスパートエンジニアの中島康宏(なかしま・やすひろ)はこう話します。

中島:

過去の死亡事故では、助手席に座っていた同乗者が運転席の足のほうに手を伸ばした状態で亡くなっていたという事例がありました。これは加速していくクルマのなかでなんとかドライバーの足をアクセルから外そうとしたか、ブレーキを押そうとしたのではないかと考えられています。

栃岡:

こういった事故を防ぐためには、同乗者が安全システムを起動できる機能というのは、きわめて重要だと思っています。


統合制御システム開発本部 先進安全車両開発部 エキスパートエンジニア 中島康宏

原:

同乗者は万が一、ドライバーが意識を失くしてしまうタイミングに居合わせたとしても、運転を代わってあげることはできないですからね。バックアップとしてDEAが副操縦士のように控えていてくれることは、とても安心だと感じます。

78%ものドライバーが、運転中に眠気。「ドライバーの体調急変などの異常を要因とする事故」にDEAがアプローチ

デモを体験して、DEAがどのような技術なのか、理解が深まった原さん。生活者の視点からの素朴な疑問に、開発者の栃岡が答えます。

原:

マツダはこれまでにも、さまざまな安全技術をクルマに実装してきたと思います。それらの既存の技術と比べて、DEAの新しい点はどこなのでしょうか?


栃岡:

ドライバーの異常を検知したあと、安全な走行状態を維持するために起動するさまざまな運転支援システムは、これまでのマツダ車にも搭載されていたものです。既存の安全技術として「i-ACTIVSENSE」という運転支援システム群があり、それを進化させています。また、最後のステップである「緊急通報」も、エアバッグの作動や衝突を検知した際に自動で作動するシステムがもともとありました。

 

それに対し、新しい技術として、「ドライバー・モニタリング技術」が加わりました。姿勢の崩れや視線・頭の動き、ハンドルやペダルの操作をセンシングしながら、ドライバーの状態をつねにモニタリングし、異常を検知した際にドライバーに注意喚起を行ないながら、「運転の継続が困難」と判断する技術です。


ドライバーの状態をモニタリングするための車内カメラのひとつ。

これまでのモニタリングでは「眠気・居眠り」「わき見」を検知して、ドライバーへの注意喚起や警告を行なっていましたが、DEAにより、「ドライバーの体調急変などの異常」を検知し、ドライバーの状態に合わせクルマを減速・停止させるようになったということです。

 

マツダでは今後、ドライバーの視線を捉える技術をより進化させていく想定です。具体的には、ドライバーが運転中に信号や標識を見ているのか、道路を見ているのか、歩行者を見ているのか……といったことが判定可能に。そこへDEA技術などを組み合わせることで、より安心安全な運転につなげていきます。 

原:

DEAの開発に至った背景には、どのような課題があったのでしょうか?

栃岡:

いまの世の中で、「ドライバーの体調急変などが原因となる事故」がどうしても防ぎきれていないんです。接近する車両をつい見落として出会い頭の事故を起こしてしまったり、ふと気が抜けて車線からはみ出し、対向車とぶつかってしまったりと、ヒューマンエラーによって起こる事故がさまざまあります。また、高速道路調査会の調査によれば、78%ものドライバーが、運転中に眠気を感じているといいます。

 

また、特に現代の超高齢社会において心配されているのが、周囲を巻き込む重大事故にもつながりやすい、ドライバーの発作や急病などの体調急変による事故。これはじつは右肩上がりで件数が増えていて、2021年には300件を超えたと報告されています*2

*2: 公益財団法人 交通事故総合分析センター「交通統計」引用


栃岡:

こうした状況に対処していくことが重要だと考え、私たちは「MAZDA CO-PILOT CONCEPT」という考え方に基づいてDEAを開発してきました。「CO-PILOT(コパイロット)」とは、「副操縦士」の意味。パイロットであるドライバーをいつでも見守り、何かあったときには運転をサポートしてくれる。人が安心や自信を持って運転できるよう、支えてくれる安全システムには、やっぱり無機的ではない「人格」が必要なのではないかなと思ったんです。

原:

ドライバーに万が一のことが起こった際に、深刻な事故やその被害の低減に寄与するのがDEAの技術なんですね。街を走るクルマがこの技術を備えていることは、歩行者にとっての安心にもつながると思います。一人の親としては、夜泣きなどで寝不足になりがちな子育て世代にとっても心強いと感じました。

 

 

運転は人の幸福度を上げる!? 完全自動運転は「理想の未来」なのか

原:

未来の理想のクルマといえば、自動運転でどこへでもスイスイ連れて行ってくれる……そんな夢のような存在なのではないかと、漠然と思い描いていました。安全に走行できる自動運転車ができれば、ドライバーの人的ミスや体調急変をカバーする必要もなくなる、なんてことはないのでしょうか?

栃岡:

じつは私たちマツダは、「人がただクルマに乗せられて移動する」という未来が本当に幸せなものなのかどうか、少し疑問を持っているんです。なぜなら、人というのは、さまざまな行動を主体的に起こし、自分の意思で何かを成し遂げることで成長しながら、生きる実感を得たり歓びを感じたりする生き物なのではないかと思うからです。

 

人にとって「運転」は、何かしら人が楽しく生活していくにあたって重要なものを与えてくれる、薬でいう「効用」のようなものを持っているんじゃないか。それが、マツダがビジョンに掲げる「走る歓び」という考え方なんですね。


筑波大学の研究によると、運転をやめた人は運転を続けている人に比べて、要介護認定のリスクが2.16倍に

栃岡:

実際、「自分の力を最大限に発揮しながら、何かを達成すること」を繰り返すことは、自己効力感、幸福度を上げるために非常に重要だと心理学の世界でもいわれています。クルマを操縦する、その結果思ったとおりに動かせる……この繰り返しというのは、まさにそれなんです。

 

マツダは「人馬一体」という考え方を大切にして、クルマの開発を行なってきました。それはつまり、ドライバーが「こう運転したい」と思ったとおり、ぴたりとそのままに動くクルマであるということ。このことは、運転の気持ちよさのみならず、安心安全を目指すことにもつながります。もちろん、誰しもが事故を起こさず安全に運転したいと思っているわけですから。

 

クルマを運転することは、誰かと連れ立ってどこかに行ったり、出かけた先で新たな人や風景に出会ったりと、さまざまなコミュニケーションやつながりに発展します。運転支援技術が進化したとしても、人が自分の意思で主体的に運転して移動し、安全に目的を達成することができるようサポートしていきたい。そして人と人とのつながりを大切にしたい。これが私たちの思いです。


最後に、CX-80のクルマとしての乗り心地を原さんにドライバーとして体感してもらいました。普段はコンパクトカーに乗っているため、最初は緊張した様子でしたが、「運転席の位置はとても細かく調整でき、視界も良好で、バックモニターもあるので安心して運転できました。栃岡さんのお話にあった、クルマを思ったとおりに操作できる楽しさ、歓びを実感できました!」と笑顔で語ってくれました。


「車線をはみ出そうとしたときに自動で戻るのをサポートしてくれたり、後ろから車がぶつかってきた際にしっかりと衝突を吸収してくれたりと、親の視点でも安心できる改良がたくさん施されていました」

編集後記

 

取材を通じて、運転中の眠気や体調急変という「誰にとっても身近な不安」について、あらためて考えさせられました。特に子育て中の身として、家族を乗せての運転は、「もし私が運転中に具合が悪くなったら……」と、いつも緊張します。そんななか、今回体験したDEAは、本当に心強い存在。「大丈夫、私が見守っていますよ」と、そっと背中を押してくれる、まるでもう一人の運転手が、隣にいてくれるような安心感があって、運転への気持ちがぐっと楽になるね、と、原さんと語り合いました。こうした安全技術が広く普及することで、交通死亡事故のない社会に一歩でも近づけるよう、そして誰もが好きなときに好きな場所へ自由に移動できる歓びを享受できる未来を皆でつくっていきたいと思います。



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