自動車生産工程で発生するCO₂、どうやったら減らせる?〜高校生が問うクルマの未来〜

地元・広島の高校生からマツダに届いた一本のメールをきっかけに実現した、高校生たちがマツダの工場などをめぐり、サステナブルな取り組みについて見学するツアー。4人の高校生はそれぞれ、マツダと環境問題に対する「問い」を抱き、その答えを知るために参加しています。

 

第2回は「自動車が地球環境に与える影響をマツダはどう捉え、どう解決しようとしているのか?」という高校生の問いに答えるため、クルマの製造工程における取り組みについて紹介。社内に設けられた発電所や塗装工場、組立工場をめぐり、カーボンニュートラルに向けたさまざまな挑戦に迫りました。

将来安心してドライブを楽しめるように。マツダの自動車製造工程でのCO₂排出削減

2024年2月に参加した国際環境会議でマツダの環境に対する取り組みを知り、興味を持ったというAICJ高校の生徒たち。サステナブル・ブランド国際会議でも交流した経営戦略本部の河崎豊(かわさき・ゆたか)と半年ぶりに再会。今回も河崎が高校生たちを案内する。

マツダ本社を訪れた4人の高校生たちのなかで、今回の社内見学をひときわ楽しみにしていたのが高橋遙華(たかはし・はるか)さん。父親の影響もあってマツダ車を好きになり、将来は自身もスポーツカーに乗りたいと話します。一方で、高橋さんが懸念するのはやはり地球環境への影響のようです。

高橋:

自動車は走行中に温室効果ガスを排出するだけでなく、生産するときにもたくさんのエネルギーを使い、どんどんCO₂を出しています。ますます環境への影響が問題視されていくなかで、自分が免許をとってクルマを買えるようになったときにはいまみたいに運転を楽しめる時代じゃなくなっているんじゃないかという不安があります。


高橋さん

同じ高校に通う橋本湊(はしもと・みなと)さんも、同様の不安を口にします。また、マツダに対してはこんな疑問も。

橋本:

世界的に電気自動車にシフトしていく流れがあるなかで、マツダはそこにはあまり力を入れていない印象がありました。ただ、電気自動車もバッテリーをつくる過程でCO₂を出してしまうという話を聞いたこともあって、私自身も何が正解なのかわかっていません。だからこそ、マツダが環境に対してどんな取り組みをしているのか知りたいと思っています。


橋本さん

河崎が4人を案内したのは「マツダミュージアム」。約100年にわたるマツダの歩みやクルマづくりの歴史のほか、環境への取り組みも紹介しています。

まずは河崎から高校生たちに、マツダの環境問題に対する姿勢、考え方が語られました。

河崎(マツダ):

環境のサステナビリティを実現するために、世界中でカーボンニュートラルを目指す取り組みが進められています。自動車でいうと、たとえば従来の化石燃料からCO₂を排出しないクリーンエネルギーに代えていく必要がある。その手段の一つとして電気自動車が注目されていますが、動力源となる電気の多くは石炭を燃やしてCO₂を排出する火力発電によってつくられていますよね。つまり、その電気自体もカーボンニュートラルにならなければ、いくら電気自動車が普及しても完全なCO₂削減にはつながらないのです。

河崎:

また、現状では自動車を使う際だけでなく、つくる際にも多くのCO₂を排出しています。鉄や樹脂といったパーツの素材をつくる過程でもそうですし、それを組み立てる工程、塗装する工程でも電気や熱を使用しているからです。

 

さらに言えば、製造したクルマを販売店まで輸送する際にもエネルギーが必要ですし、使い終わった車を廃棄する際にも樹脂を燃やすなどしてCO₂が出てしまう。そのため、大事なのはクルマの原料調達、製造、使用、廃棄、リサイクルまでの各段階における環境負荷を減らしていくこと。この評価方法のことを「ライフサイクルアセスメント(以下、LCA)」といい、マツダでも重視しています。


マツダが考えるLCAの全体像


クルマをつくるさまざまな過程でCO₂が出ることを知り、少なからずショックを受ける高校生たち。

工場の電力を生み出す「エネルギーセンター」。石炭依存を脱却し、クリーンなエネルギーへ

マツダではライフサイクルの各段階でCO₂を減らすために、さまざまな取り組みを行なっています。

 

たとえば、マツダは国内の自動車メーカーで唯一、自社工場の敷地内に大型発電所(エネルギーセンター)を持っています。エネルギーセンターでは本社工場で使う電気の8割以上を生み出していますが、今後はこの電気をつくるための燃料をカーボンニュートラルなものに変えていく計画です。実現すれば、自動車の生産過程で排出するCO₂を大幅に削減できる見込みです。

マツダ本社工場内にあるエネルギーセンター。マツダでは山口県にある防府工場の敷地内にも発電所があり、工場で使う多くの電力を自家発電で賄っている。


「エネルギーセンター」の運用を任されるマツダの河野


エネルギーセンターの運用を担うプラント技術部の河野瞬(こうの・しゅん)は、こう語ります。

河野(マツダ):

マツダでは2035年に世界の自社工場でカーボンニュートラルを実現することを表明しています。そのためには、このエネルギーセンターで使う燃料も、現在の石炭依存から脱却しないといけない。現段階での第一候補は燃やしてもCO₂を排出しないアンモニア。工場敷地内にアンモニア発電の設備をつくる計画を進めています。

 

マツダでは、現在の石炭からシフトしていき、将来は100%アンモニアへ切り替える予定です。また、新しい発電施設ではこれまでの火力発電で培ってきた技術や省エネの工夫も継承して、より効率の良い運転をしていきたいと考えています。

河野:

たとえば設備の日常点検一つとっても、より労力をかけずに行える方法を模索しています。現在はドローンを採用して煙突やボイラーに異常がないかチェックしたり、至るところに設置したセンサーで劣化状況を確認しているのですが、これによって効率化につながるだけでなく、作業者を危険にさらすこともなくなりました。

工場の点検を行なうドローン。

また、火力発電の過程では大量の蒸気が発生しますが、本社工場ではその熱も有効利用しています。全社へ暖房のために蒸気を送り込んでいるほか、塗装工場では車体を塗装後に乾燥させるための熱エネルギーとして使用。発生する蒸気も無駄なく活用しているのです。

石炭を燃やした熱でお湯を沸かし、その際に発生する蒸気でタービンを回して電気を生み出す仕組み。その蒸気も無駄にせず、工場内で有効活用している。

クオリティを維持しながら大幅な省エネ化に取り組む「塗装工場」

次に訪れたのは「宇品(うじな)工場」。車両の塗装や組立を行う生産ラインがあり、ここにもエネルギーセンターでつくられた電力や蒸気が送り込まれています。

最初に見学するのは塗装ライン。前述のとおり、発電の際の蒸気を乾燥工程に用いることで省エネをはかるほか、塗装の技術自体もなるべく省力化しつつ、マツダが定める高い製品クオリティを担保できるよう進化しています。その一つが、マツダが独自に開発した、世界トップクラスの環境性能の「アクアテック塗装」。宇品第1工場における塗装工程の部門に務める前田晃佑(まえだ・こうすけ)はこう言います。

前田(マツダ):

アクアテック塗装は、VOC(揮発性有機化合物)の排出量と、CO₂の排出量を同時に削減できる水性塗装システムです。2009年にマツダが開発し、この宇品工場をはじめグローバルの工場で採用されています。

 

また、2024年からは宇品工場の塗装ラインに新しく「高効率塗装機」を採用しました。従来の塗装機に比べてVOCとCO₂を大幅に削減できるもので、まずは塗装工程の一つであるクリア外板から導入し、徐々に拡大していく予定です。

高校生に塗装工場について説明する前田

高校生たちは前田の案内のもと、従来塗装機と高効率塗装機による塗装の違いを見学。

ここで前田から高校生たちにクイズが。

前田:

クリア外板の工程では、従来塗装機と高効率塗装機どちらも塗装ロボットを使用していますが、塗り方が異なっています。どう違うかわかりますか? 

4人が頭を悩ませるなか、橋本さんが口を開きました。

橋本:

塗装ロボットの塗料の噴射口から車体までの距離だと思います。従来塗装のほうは遠くて、塗料が周囲に分散して見えるけど、新しい塗装機は距離が近いから塗りたいところにピンポイントで塗れているのかなって。

前田:

正解です。従来塗装機のほうはスプレーが舞っているぶん、かなりの塗料が無駄になっていますよね。狙った塗装物に塗料が付着せずに、その周囲に塗料の噴霧が飛散してしまう状態をオーバースプレーというのですが、高効率塗装機は塗装ロボットのエアノズルを改良したことでオーバースプレーが少なくなり、塗料の使用量自体を大幅に削減することができています。では、塗料の使用量を抑えると、環境にとってどんな良い影響があると思いますか?

高橋:

塗料を使用する量を抑えられるから、結果的に塗料の製造時に出るCO₂を抑えられるということですか? 

前田:

それもあるのですが、もっと重要なポイントがあります。じつは車体に付着せずに空気中に漂う塗料は、効率面以外にも人体に悪い影響を与えるなど、さまざまな弊害があるんです。そのため、ブースのなかに塗料が滞留しないよう、天井のファンから空気を送り続けて排気口から出しています。これにかなりの電力を使っているんですね。ですから、そもそも空気中に漂う塗料自体をできるだけなくすことができれば、送り込む空気の量も減らせます。結果的に電力消費を抑えることができ、大幅な省エネにつながるんです。

ロボットアームのエアノズルの改良に加え、静電気を制御する技術を確立したことで、ノズルを車体にギリギリまで近づけても火花が飛び散らず、安全に作業することが可能になった。

なお、高効率塗装機を導入したことで、塗料の使用量は従来よりも17%削減。VOC排出量も同じく17%削減することに成功しました。これを現在のクリア外板工程以外にも広げていくことで削減効果はより高まり、さらにブース内の塗料を排出するための風量を抑えることで大幅なCO₂排出量削減が期待できます。

 

マツダの塗装ラインではこうした省エネへの取り組みを今後も推進。地道な技術と工夫の積み重ねが、2035年のグローバル自社工場カーボンニュートラル化へとつながっていくのです。

塗装工程の一部は、いまも人の手によって行なわれている。塗装には特にこだわりを持つマツダ。職人の匠の技術は欠かすことのできない財産だ。


塗装工程見学後の一コマ。それぞれが見学の感想を話し合っていた。

小さな積み重ねが、効率化・省エネ化につながる。「組立・完成検査工場」

最後の見学ポイントは、宇品第2工場(U2工場)にある「組立・完成検査工場」。ここでは、先ほど塗装した車体にさまざまなパーツを取りつけ、クルマに仕上げていく作業が行なわれています。組立後の車両はそのまま検査工程へと進み、問題がなければ晴れて完成です。


じつはこの工場内にも、省エネや作業効率化のためのさまざまな工夫が凝らされています。U2工場でアシスタントマネージャーを務める森原考志(もりはら・たかし)は言います。

森原(マツダ):

マツダの工場では、一つの生産ラインでさまざまな種類のクルマを製造しています。つまり、同じラインに違うクルマがどんどん流れてくるため、車種ごとに必要な部品を素早く正確に取りつけていく必要があるんです。

 

とはいえ、それを個々の作業者の判断だけに任せていては必ずミスが起こります。そこで、マツダのラインでは1台分の部品をあらかじめ箱のなかにピッキングしておき、組み立てるクルマの横を無人搬送台車で並走させる「キットサプライ方式」を導入しています。

高校生たちに組立・完成検査工場の全貌を説明する森原


また、工場全体として生産の方式や仕組みを大きく変えるだけではなく、従業員が自ら発案し導入された小さな工夫も、工場内の至るところに散りばめられています。

森原:

このU2工場では400名くらいの人が働いています。その一人ひとりが少しでもミスなく、負担なく作業できるよう、また省エネにつながるよう、日々さまざまな改善策を考えているんです。それらを私たちは「からくり改善」と呼んでいます。

 

たとえば、からくり改善の代表格である「定量とれるんジャー」という機構。仮に5個のナットが必要な場合、部品の山のなかから決められた数だけを正確に素早く取ることは熟練の作業員でも難しい作業です。ですが、「定量とれるんジャー」を使えば手でレバーを押すだけで必要な数のナットだけが手のひらに落ちてきます。これにより、作業の正確性や効率性が大幅に向上しました。

「定量とれるんジャー」。レバーを動かすと、必要な数の部品が自動で落ちてくる。もともとは当時入社11年目の作業員が製作したもの。

森原:

この組立工場では1日70万個以上のボルトとナットを使用するため、いちいちナットを数えて取っているとかなりの時間を要してしまいます。だからこそ、こうした小さな改善が大きな意味を持ってくる。定量とれるんジャー以外にも、あらゆる工程でさまざまな改善のアイデアが採用されています。

こちらもからくり改善の一つ。猫の手もかりたいということで「CAT’S HAMD」。こうした遊び心あふれるアイデアがそこかしこに盛り込まれている。

こうした、からくり改善の機械自体も従業員自らが設計したもの。設計しては試し、また改善。うまくいくまで何度も繰り返してきました。

決して派手な取り組みではありませんが、こうした一つひとつの地道な改善が積み重なることで大きなインパクトを生み出します。特に、からくり改善のようにエネルギーを使わず作業の無駄をなくす工夫は、工場全体の省エネにもつながってくるのです。

森原:

1台のクルマを組み立てるには、およそ1,000の工程があります。からくり改善によって、そのすべての工程にかかる時間を1秒ずつ短縮し、コストを1円ずつ下げることができたらどうですか? 積み重なれば、かなりの生産性向上や省エネにつながりますよね。ですから、私たちはこれからも1秒を削るためのアイデアを考え続けていきたいと思っています。

すべてのパーツの組立が完了すると、そのまま完成検査へ。照明を当てて外板品質をチェックしたり、実際にクルマを動かしたりして挙動を確認するなど、さまざまな検査を経てようやく出荷となる。

クルマの全ライフサイクルを視野にカーボンニュートラルに取り組む

自動車メーカーとしてカーボンニュートラルを実現するためには、クルマのライフサイクルの各段階でCO₂の排出量を減らしていくことがやはり重要です。今回見てきたのは、そのなかでも特に重要な「クルマの製造過程」における取り組み。高校生たちはどんな感想を抱いたのでしょうか?

橋本:

最初はマツダがそこまで電気自動車の生産に注力していない印象から、環境への意識があまり高くない会社なのかなと思っていました。でも、マツダは電気自動車というひとつの手段だけではなく、LCAという観点でさまざまなアプローチの解決策を講じようとしていることがよくわかって、モヤモヤが晴れました。

高橋:

クルマに限らず企業の生産活動って、自分が想像していたよりも多くのことが環境破壊につながると知って、正直不安な気持ちにもなりました。でも、同時にマツダがこんなにもいろんな取り組みを始めていることに驚きましたし、今回見学したような活動が実を結んでいけば、私が将来、スポーツカーを楽しめる時代がくると思うので、これからも頑張ってほしいなと思います。

マツダに対する印象の変化とともに、これからの取り組みへの期待が込められた高校生の言葉。半日にわたり、4人と行動をともにしてきた河崎も「高橋さんも言ってくれましたが、これからも好きなクルマで自由に移動を楽しめるよう、さらに取り組みを進化させていきたいと思います」と、改めて決意を語った。




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クルマづくりの過程で発生するCO₂、どうやったら減らせる


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