「バーチャルからリアルへの道」第4期生の3人は、再び筑波サーキットに集まった。eモータースポーツを出発点に、MAZDA SPIRIT RACINGの一員としてリアルレースに挑む彼らにとって、ここは何度も練習してきた場所だ。
2026.11.04
【Virtual to Real : Step2】レースは、彼らのものになっていく。雨の筑波、その先に見えた未来
仲間とともに、無事にチェッカーを受ける。その難しさも、喜びも知った、6月21日のもてぎでの初レースから2か月。
初レースの経験を、今度はどんな走りに変えるのか。3人の2戦目に、期待が膨らむ。
Chapter 1:今度は、自分たちで準備する
8月28日。翌日のレースを前にした筑波は晴れ。気温は34度に達した。
もてぎでは交代や情報共有に戸惑った。今回は3人で反省を持ち寄り、コーチに相談する前に課題を整理した。
前日の走行では、走り方や燃費、トラブルへの対応を確認。
午後は自ら交代練習を始め、全員が30秒台で交代できるようになった。1分以上のエンジン停止が必要なマツ耐で、乗り込んだあとに落ち着く余裕をつくる。走行データも見比べ、仲間と手応えを確かめた。
前日の走行を終え、パソコンを囲む4期生とサポートメンバー。自分の走りを、仲間とともに確かめる。
グラフを指さして走りを見比べる。コースを知るだけでなく、自分たちの走り方を確かめる時間が、翌日の準備になる。
クルマの感触もいい。準備も進んでいる。もてぎでは完走が目標だった3人が、今度は入賞を狙う。
3月の体験走行、5月の練習、日々の「グランツーリスモ」。筑波は、3人が走り込んできたコースだ。
何度も走ってきた筑波なら、届くかもしれない。彼らにとって、入賞の二文字は決して絵空事ではない。
Chapter 2:知っている筑波が、雨の筑波になる
翌朝、午前5時30分。筑波には雨が降っていた。
前日の手応えは、そのまま今日の答えにはならない。路面が濡れれば、ブレーキも、アクセルも、走る位置も変わる。練習したコースを、もう一度確かめ直す朝となった。
予選を担当したのは植木。小雨の中、コースへ出ていく。ところが、他車の横転によりセッションが中断。再開後も、周囲にはクルマの集団。思うようにアタックできる空間を得られない。
順位はクラス11位、総合13位。時間が足りず、中西は予選で走ることができなかった。
ここから、どう戦うか。順調だった前日の準備を、実際のレースの中で試す時間が始まる。
Chapter 3:怖さも、悔しさも、次の一人へつなぐ
決勝の第1走者は中西。第2走者に植木、第3走者に岡村、最後にもう一度植木が走る。
午前10時23分、決勝がスタート。
空は曇り。レース開始から15分ほどで、再び雨が落ち始め、その勢いは次第に強くなっていった。
中西は安定したラップを刻む。雨が増せば、走るラインも探り直す。それでも、前を行くクルマとの距離を縮めるには、もう少しペースが欲しい。
中西拓也(なかにし・たくや)。
中西
序盤はもう少しペースを上げたかったんですけど、前のクルマに離されてしまって。安定したラップを刻めたのはよかったと思います。でも、その分、離されていくのは悔しかったですね。
40分、30周を走ってクラス10位。中西から植木へ、クルマが渡る。
植木の走行中、雨脚はさらに強まった。チームの燃費計画に合わせてエンジンの回転数を抑えながら、周囲のクルマと走らなければならない。雨に加えて、抜く、抜かれるという判断が重なる。
植木俊輔(うえき・しゅんすけ)。植木は燃費と周囲のクルマを意識しながら、自分にできる走りを探した。
植木
これまでで一番怖かったですね。3月に雨の筑波を走って以来のウェットでしたし、前のクルマを抜くところでもペースを出せなくて。ただ、走るうちにクルマの動きが少しずつ分かってきて、その感触が最後にもう一度走るときの自信になりました。
3月に筑波で体験走行をしたときから、植木は怖いと率直に言いながら、教わった操作を思い切って試していた。クルマの反応を、自分の体で確かめる。その思い切りの良さが、雨の筑波でも手がかりを見つける力になった。
怖さは残っている。それでも、試して確かめられることは増えた。最初の走行で得た手応えが、もう一度走る最後の区間につながっていく。
80分、57周。クラス9位で、今度は岡村へ交代する。
岡村が走る区間でも、周囲にはクルマの集団がいた。抜くための場所と、譲るための場所。その判断を重ねながら、雨のコースで自分のペースを探っていく。
そんな中、正午を前に、第2ヘアピンで他車がコースアウト。赤旗が提示され、レースは中断された。
赤旗中断中の車列。濡れた路面にクルマが並び、再開の時を待つ。中断は約14分に及んだ。
レースが再開すると、岡村はピットへ戻った。120分、78周、クラス10位。最後の植木に、クルマを託す。
岡村康平(おかむら・こうへい)。
岡村
前にクルマがいると、自分が走りたいペースで走れなくて。抜くにも、どこなら行けるかを考えなければいけない。もう少し走れたはずだと思うので、悔しかったですね。ただ、こういう雨の中で、周りのクルマと一緒に走れたのは、すごく貴重な経験になりました。
混走の中で速さを発揮するには、まだ伸ばせるところがある。悔しさの隣に、次の走りを考える材料が残った。
雨に濡れた路面。赤旗明けにペースを上げる周囲のクルマ。アンカーの植木は、その中でも走りを崩さず、危険を見極めながら周回を重ねた。
チェッカーの時間帯、走る仲間へピットから大きく手を振る。雨と赤旗を経験した一戦を、3人はクラス10位、無事故・無反則で走り切った。
そして、チェッカー。クラス10位、95周。接触やクラッシュも、ペナルティもなく、3人は2時間半を走り切った。
Chapter 4:10位という数字の、その中身
入賞には届かなかった。順調に準備できたからこそ、悔しさは残る。
けれど、レースには、自分たちだけでは決められないこともある。天候も、他車のアクシデントもそうだ。準備のすべてが、その日の順位に表れるとは限らない。それもレースだ。
3人自身も、ペースや混走の判断に、まだ改善できるところを見つけている。次にすべきことはある。
初レースのもてぎでは、他車との接触でクルマに傷がつき、中西は自分の責任を強く感じていた。仲間の励ましで走りをつないだ一戦。その次の筑波を、接触やクラッシュなく終えた意味は大きい。
交代作業を、余裕を持って終えられるようになった。コースとピットの間では、状況を伝える通話が機能した。走る一人を、残る二人が支える。もてぎで見つけた手順や情報共有の課題は、レース中の行動に変わっていた。
一日の終わり、チームでレースを振り返る。チーフインストラクターの加藤彰彬(かとう・てるあき)さんは、完走を評価しながら次へ向けた課題を確認した。
完走した3人に、インストラクターの加藤さんが声をかける。重視したのは、順位だけでなく、もてぎで学んだことを今回の行動に変えられたかという点だった。
加藤
いいレースでした。指示を守って、それぞれにできることをしっかり出してくれたと思います。順位は相手もあることですから、10位という結果だけを気にする必要はありません。雨の中で、クルマを無事に持って帰ってこられた。それは次につながる、大きな成果です。
一日の終わりに集まった振り返りの場には、笑顔もあった。悔しい順位だけで終わらず、できたことと、次にすべきことを持ち帰る。
入賞の喜びは、次の機会へ持ち越しとなった。それでも、何をできるようになったか、次に何をすべきかは、以前よりはっきりしている。結果を待つだけの3人では、もうない。
Chapter 5:教わったことが、誰かの力になる
10月、富士スピードウェイ。マツダファンフェスタで開かれたメディア対抗ロードスター耐久レース、通称「メデ耐」に、4期生は助っ人ドライバーとして参加した。
1989年から続く「メディア対抗ロードスター耐久レース」、通称「メデ耐」。編集者やジャーナリストらがチームを組み、同一仕様のロードスターで競う。普段は取材する側のメディアが、自らレースを体験し、その楽しさを広く伝える場でもある。
さまざまなメディアが挑む3時間のレースには、実戦経験の少ない人もいる。別々のチームに一人ずつ加わった3人は、交代や通話、燃費走行の知恵を仲間に伝えた。
岡村はメディアチームとともに、「グランツーリスモ」で練習会も開いた。半年前は教わる側だった3人が、いまは新しい仲間の準備を支えている。
別々のメディアチームに助っ人として参加した4期生。学んだ経験を伝え、新しい仲間とレースを楽しんだ。
教わった経験が、誰かの挑戦を支える力になる。速さを競う喜びと、仲間と走り切る喜び。3人はその楽しさを広げる側にもなっていた。
同じ富士では、その先の未来を思わせる先輩たちの姿もあった。
Chapter 6:メデ耐、もう一つの物語
今年のメデ耐を制したのは、45号車「aheadロードスター」だった。
慶應義塾大学自動車部の学生と、V2Rの卒業生がドライバーとして力を合わせたaheadロードスター。3時間のレースで優勝した。
その中には、「バーチャルからリアルへの道」の卒業生もいた。3期生の市原拓真選手と、1期生の龍翔太郎さんだ。
「バーチャルからリアルへの道」1期生の龍翔太郎さん(左)と、3期生の市原拓真選手(右)
市原は1時間以上の走行を担当。コース上の走りとピットの判断がかみ合い、チームは残り約1時間半でトップに立った。
4期生の実戦を支えてきた1期生の三宅陽大選手も、このチームに加わっていた。
三宅陽大(みやけ・はると)選手。「バーチャルからリアルへの道」1期生。
いまは「スーパー耐久」、通称「S耐」のドライバーとして戦う三宅が、メデ耐では戦略や燃費、ピット作業を担当した。
そして最後には、耐久レースらしい幕切れが待っていた。最終周、最終コーナーで燃料が尽きる。それでもクルマは、惰性でフィニッシュラインを越えた。70周を走り切っての優勝。最後まで届くかどうかというぎりぎりのところで、チームは勝利をつかんだ。
チーム全員でつかんだ、aheadの初優勝。走る人と、支える人。それぞれの仕事が、最後のチェッカーにつながった。
チームにとって、21年目にして初めての優勝だった。数か月前には実戦経験の少ないメンバーもいた中で、ドライバーもサポートも準備を積み重ねた。互いの役割がつながり、最後の数メートルまで届けた勝利だった。
ここにも、バーチャルからリアルへ渡ってきた経験がある。さらにその経験が、別の仲間とのレースを支え、優勝へとつながっていた。
Chapter 7:卒業したあとにも、道は続く
前年、「バーチャルからリアルへの道」の3期生に選ばれた市原は、まだ運転免許を持っていない大学生だった。参加をきっかけに、MT免許を取得。実際にクルマを走らせるところから、挑戦を始めた。
市原拓真(いちはら・たくま)選手。3期生。選抜時には運転免許を持っていなかった。現在はロードスター・パーティレースⅢへの挑戦も続ける。
その挑戦は、1年後、仲間と優勝をつかむ走りへつながった。現在は「ロードスター・パーティレースⅢ」のジャパンツアーNDシリーズにも参戦している。用意された一年を終えたあとも、自分のレースを続け、その先を目指している。
三宅も、プログラムを出発点に道を広げてきた一人だ。1期生としてマツ耐に挑み、パーティレースを経て、現在はS耐に参戦している。
三宅陽大(みやけ・はると)選手。1期生。現在は倶楽部MAZDA SPIRIT RACING ROADSTERのドライバーとしてスーパー耐久に参戦。今回のメデ耐ではチームを支える側に回った。
そして、自分が走る経験を、誰かが走り切るためにも使う。優勝後のコメントで、3期生の市原は、三宅の指示が確実にゴールへ届くための支えになったと振り返った。4期生の実戦を支えてきた先輩が、今度は卒業生と学生たちの勝利を支えた。
1期生の龍の道は、また違う方向へ伸びている。「グランツーリスモ」の世界大会でマツダ代表として戦った彼は、現在、マツダのデザイン本部、デザインモデリンググループに所属している。
龍翔太郎(りゅう・しょうたろう)さん。1期生。グランツーリスモの世界大会を経て、現在はマツダのデザイン部門で働く。RX-VISION GT3 EVOの開発にも参加した。
今年発表された、「グランツーリスモ7」に登場する「RX-VISION GT3 EVO」の開発にも加わった。画面の中で走りを磨いてきた経験と、実際の自動車メーカーでの仕事が、クルマをつくる側でつながっている。
パーティレースで次の一歩を目指す市原。S耐を走りながら、仲間や後輩も支える三宅。デザインの仕事で、バーチャルとリアルをつなぐ龍。進む先は、それぞれに違う。
共通しているのは、プログラムを終えたあとも、クルマやレースとの関わりが続いていることだ。そこで得た経験やつながりが、次の挑戦へ、そして別の誰かの挑戦へと広がっている。
4期生の一年も、最終戦で終わる。けれど、彼らの道まで、そこで終わるわけではない。先輩たちの姿は、その先にいくつもの未来があることを教えてくれる。
Chapter 8:最後の一戦で、何を見せるか
4期生の次の舞台は、11月28日、岡山国際サーキット。プログラムの最終戦だ。
3人はまだ、伸びている途中だ。だから、次の一戦が楽しみになる。
次は岡山国際サーキットで迎える最終戦。この一年の経験が、どんな走りにつながるのか。
もてぎでは、仲間とレースを走り切ることを知った。筑波では、自分たちで準備を重ね、雨と赤旗の中でもクルマをつないだ。富士では、教わった経験を新しい仲間へ伝え、自分の走りにも手応えを得た。
入賞を望む気持ちは、もちろんある。自分たちの成長を、今度は結果として確かめたい。それと同じくらい、この3人が一人ずつのレーサーとして、そして一つのチームとして、どこまで走れるようになったのかを見届けたい。
筑波で持ち越した喜びを、岡山でつかめるだろうか。
そして、チェッカーのあと、彼らはどんな未来を描くのだろう。
バーチャルから始まった3人のレースは、いま、彼ら自身のものになろうとしている。