SKYACTIV-Zへの挑戦 エンジンに夢と可能性がある限り ―内燃機関を磨くマツダの電動化戦略―

カーボンニュートラルに向けた電動化の流れの中で、内燃機関の可能性を追求し続けているマツダ。その背景にある想いや狙いを知るべく、内燃機関開発のキーマンである山川正尚と河野通治にインタビュー。革新的な低燃費を実現したSKYACTIVエンジンの歩みを振り返るとともに、現在開発中の「SKYACTIV-Z」や電動化時代における内燃機関のあり方にもフォーカスします。そしていずれは、走れば走るほど空気をきれいにしていくカーボンネガティブな内燃機関の実現へ――。環境負荷の低減と走る歓びを両立した、電動化時代におけるマツダらしいクルマの理想像とは?

SKYACTIVエンジンの革新性を振り返る

かつてロータリーエンジンの量産化を実現したように、マツダには独自の信念、ビジョン、技術力で新しいモノを生み出してきた風土があります。2010年、デミオに搭載されてデビューしたSKYACTIVエンジン(SKYACTIV-G)も、マツダらしい技術力の結晶です。モーターによるアシストに頼らず、内燃機関だけでリッター30km(10・15モード)というハイブリッド並みの低燃費を実現したエンジンは、当時世界に衝撃を与えました。

以来、環境負荷の低減に向けて自動車の電動化の動きが加速する中、マツダは一貫して徹底して内燃機関の技術開発を続けてきました。いずれモーターが動力の一部を担うとしても、それを下支えするのは効率の良い内燃機関であるという信念があるからです。

ここからは、マツダの内燃機関開発のキーパーソン、技術研究所の山川正尚とMBD革新部の河野通治へのインタビューを通じて、SKYACTIVエンジンの歩み、電動化時代における内燃機関のあり方、カーボンネガティブまで視野に入れた内燃機関のまだ見ぬ可能性に迫っていきます。

まずは内燃機関に革新をもたらしたSKYACTIVエンジンの歩みを振り返りたいと思います。山川さんは当時すでに開発の最前線にいらっしゃいましたね。

山川:

2005年ごろに、当時の上司だったパワートレイン先行開発部長の人見光夫さん(現・マツダシニアフェロー イノベーション)から指示を受け、のちのSKYACTIV-Gにつながる技術研究と実験を担当することになりました。人見さんはエンジンの効率(熱効率)の改善につながる制御因子を「圧縮比」「比熱比」「燃焼期間」などの7項目に絞り込んだのですが、それらについて実際に検証するのが私の役目でした。7項目のうち圧縮比はとりわけ熱効率への影響が大きいことが確認できたので、まずはここを突破口としてハイブリッドに匹敵する低燃費エンジンを目指すことになったんです。

エンジンは燃料の持っているエネルギーをすべて動力に変換できるわけではなく、排ガスの熱やエンジン内の摩擦などで半分以上のエネルギーを損失している。そこでマツダは、エネルギー損失を制御する7つの因子を突き止め、理想の内燃機関を求め最高の熱効率を追求する取り組みを進めてきた。

とはいえ、すでに他社がハイブリッドシステムを実用化していた中で、あえて内燃機関を磨いていくという方針に疑念はありませんでしたか?

山川:

マツダの規模や得意とする技術を考えた場合、まずはしっかりと内燃機関の可能性を追求し、着実に電動化へのステップを踏んでいくのは必然だったと思います。いいエンジンを作っておけば、いずれモーターと組み合わせたときにも大きなアドバンテージになるとも考えていました。こうした方針を人見さんが明確かつシンプルに示してくれたので、エンジニアとしてはすっきりとした気持ちでエンジン開発に没頭できました。

山川正尚(やまかわまさひさ)。1986年入社。長年ガソリンエンジンの量産開発に携わったのち、2005年からSKYACTIV-Gの開発に参画。近年はマツダ技術研究所に属しながら、広島大学にて厳しい排ガス規制のクリアに向けた燃焼と触媒領域の研究などを行い、学生に教鞭もとっている。

SKYACTIV-Gは内燃機関だけでリッター30kmという低燃費を実現しました。鍵となった圧縮比については具体的にどのような策を講じたのでしょうか。

山川:

そもそも圧縮比というのは、空気または混合気(ガソリンと空気が混ざった状態の気体)がシリンダーの中でどのくらい圧縮されるかを示した割合のこと。圧縮比が高いほどエンジンの熱効率が上がって出力・燃費は向上しますが、同時にノッキングと呼ばれる異常燃焼も発生してしまいます。そのため一般的な無過給ガソリンエンジンでは圧縮比を10〜11程度に設定するのが常識だったんですが、それをSKYACTIV-Gでは14にしたんです。

 

2010年発表のSKYACTIV-G。デミオに1.3Lバージョンが搭載されデビューしたのち、1.5L、2.0Lとラインナップを拡大していった。

そこまでの高圧縮比のエンジンを開発するのは未知の領域ですよね?

山川:

圧縮比は12〜13くらいまで高めると、ノッキングがひどくなってエンジンが壊れてしまうと言われていました。なので当初はあまりやりたくない実験だったのですが、人見さんは「とりあえず圧縮比15でエンジンを回してみろ」と言う(笑)。そこで高い圧縮比に耐えられるピストンを作ってしばらく検証してみたところ、意外な発見がありました。圧縮比を15にしてノッキングが起きないようにエンジンを回すと、理論上はトルクが30〜40%ほど低下するはずだったんです。ところが実際のエンジンで検証すると低下率は12%程度だったので、これなら出力面は何とかなりそうだと。さらに1、2ヶ月ほど実験を繰り返していくと、ノッキング自体をうまく回避できる燃焼方法の糸口も見えてきました。こうしてSKYACTIV-Gは量産化に向けて本格的に動き出したんです。

河野:

私が入社したのはちょうどこの頃で、部内全体が一丸となって一つのエンジンに注力していく様子を目の当たりにしました。そういえば、組み上がったばかりのSKYACTIV-Gの初号機に初めて火を入れたとき、一発始動でトラブルなく元気にエンジンが回り、すぐに実験室から開発部に「初号、順調に回りました」という入電があったんです。その瞬間フロア全体が「うおー!」と沸き立ちまして。当時はまだ新人の身でしたが、すごいエンジンができたんだと鳥肌が立ちましたね。

河野通治(かわのみちはる)。2005年入社。パワートレイン先行開発部、パワートレイン技術開発部を経て、2009年から所属のエンジン性能開発部ではSKYACTIV-G/D/Xの量産開発に従事。2018年以降はMBD革新部に所属しながら、バッテリーEVモーター開発のためにマツダが立ち上げたジョイントベンチャー「MCFエレクトリックドライブ」にも兼務出向中。長年、エンジン開発に必須の解析・シミュレーションに携わってきたエキスパート。

山川:

それまでは車種やエンジンの種類ごとに担当者が分かれていたんですが、SKYACTIV-Gに関してはパワートレイン開発本部のガソリンエンジン開発者の多くが他の仕事を一旦ストップしてこれに注力してくれたんです。開発を進めながら、「これはきっといいエンジンになる」と確信できましたね。

SKYACTIV-Gが実用化された当時はどのような反響がありましたか?

山川:

ほぼ全ての自動車メーカーさんから「技術交流したい」という申し出をいただきました。それくらい、内燃機関の圧縮比をコントロールできたのは大きな出来事だったんです。また「マツダさんは純粋に内燃機関の技術開発ができてうらやましいです」と言われたこともありました。

河野:

当時はハイブリッドにリソースを割いたメーカーさんも多かったですからね。他メーカーさんとの交流会の席では今でも「あのとき圧縮比に目を付けたマツダさんはすごかった」と言っていただきます。

そんなSKYACTIV-Gに続いて、2012年にはディーゼルエンジンのSKYACTIV-Dを発表します。それまでディーゼルには騒音や振動、排ガスが多いといったネガティブなイメージがありました。

山川:

一方で、燃費が良く加速性能が高いという強みもあったので、ガソリンエンジン同様にまだまだ改良の余地はあると踏んでいました。そこで「環境にやさしく、高回転まで気持ちよく回るディーゼルエンジンを作ろう」というコンセプトで開発がスタートしたんです。

2012年に登場したSKYACTIV-D。欧州では一般車にもディーゼルエンジンが普及していたが、日本では「トラックが積むエンジン」というイメージが強かった。それを軽快な走りとドライバビリティで覆した。

SKYACTIV-Dの開発のポイントと特徴を教えてください。

山川:

ポイントはここでも圧縮比ですね。ディーゼルエンジンの仕組みは、シリンダー内で圧縮された高温の空気の熱で軽油を着火させるというものです。空気を熱くするには圧縮比は高いほうがいいので、一般的なディーゼルエンジンの圧縮比は17〜18程度が常識でした。しかしSKYACTIV-Dではあえて圧縮比を下げることで、ガソリンエンジンのような高回転域までの伸びと高い環境性能を実現させたんです。

河野:

こうして見るとSKYACTIVというのは、ディーゼルエンジンにはガソリンエンジンのような低圧縮比できれいな燃焼を、ガソリンエンジンにはディーゼルエンジンのような高圧縮比で燃費向上を……というようにお互いの特徴や強みを融合させていくプロジェクトでもあるんですよね。

ガソリンとディーゼルという2つのアプローチで内燃機関の常識を覆してきたSKYACTIVエンジンですが、2019年には第3弾となるSKYACTIV-Xが登場します。

2017年発表のSKYACTIV-X。ガソリンの圧縮着火という技術に挑み、それまでにない燃焼方式を開発。その裏には高度なシミュレーション技術の存在があった。

山川:

ガソリンエンジンの燃焼方式として、ディーゼルエンジン同様に空気の圧縮による自己着火でガソリンを燃焼させる「予混合圧縮着火(HCCI)」という方式があります。これだと従来の燃焼方式に比べて高効率で排ガスがきれいになるとされているんですが、実用化できたメーカーはありませんでした。理由は、軽油に比べてガソリンは火が点きにくい燃料だからです。

燃えればきれいですが、圧縮だけで着火させるのが難しいと。

山川:

そこでマツダは、圧縮着火を誘発するためにプラグの火花を補完的に使う「火花点火制御圧縮着火(SPCCI)という方式を開発したんです。ただ、技術が高度になればなるほど、開発にかかる時間はどんどん膨らんでしまう。

河野:

適切なSPCCI燃焼を実現するには、SKYACTIV-Gの1.6万倍の時間を要するとされ、従来の手法では完結が不可能だと考えられていました。しかしSKYACTIV-Xでは、燃焼モデルを活用した高速計測・データ処理、AIの機械学習技術の開発を進めた結果、今では開発の所要時間をSKYACTIV-Gの3分の1以下に抑えることができています。

山川:

こうした解析・シミュレーションのおかげもあって、低回転から高回転まで少ない燃料で高効率な燃焼が可能になり、SKYACTIV-Xはまさしくディーゼルエンジンとガソリンエンジンのメリットを兼ね備えた内燃機関になったというわけです。

開発における「シミュレーション」の役割とは?

ここであらためて、開発における「シミュレーション」の活用についてお聞きします。マツダは特にこの分野に力を入れているそうですね。

河野:

マツダはスモールプレーヤーなので、人的リソースに限りがあります。そこをコンピュータによる計算で補おうというのが、シミュレーションに力を入れている背景ですね。その都度パーツを試作して実験・検証するのに比べて、格段に時間と労力をセーブできますから。また、吸排気時のガスの流れを検証しようという際に、実験による計測ですと数値的な結果はわかるんですけど、具体的にエンジン内部でどんな現象が起きているかまでは把握できません。そこでシミュレーションによって「現象を見える化する」というのも私たち解析チームの重要な役割になります。

解析モデルを活用すれば、あらゆる条件下での実験がシミュレートされ、エンジン内部で起こる現象を可視化できる。

現象が見えると、開発においてどのようなメリットが生まれるのでしょう?

河野:

私たちエンジニアは理論的に物事を考えていくのが得意なので、ひとたび現象が可視化されると想像力が膨らみ、改善や課題解決に向けたアイデアが一気に湧くんです。このように私たち解析チームが発想のサポート役となり、「実験チーム」「設計チーム」との三位一体で新しい技術を作っていく体制は、SKYACTIV-Gのころから徐々に固められてきたもの。シミュレーションの活用がここまで根付いた自動車メーカーは、おそらくマツダが最初だったんじゃないでしょうか。

SKYACTIVエンジン開発の礎を築き、プロジェクトをリードした人見光夫(左)と山川(2014年撮影)。スモールプレーヤーであるマツダにとって、解析の重要性を誰よりも認識していたのが人見であった。

新エンジン「SKYACTIV-Z」が目指すもの

そんな三位一体の開発体制で生まれてくる新たなエンジンが「SKYACTIV-Z」なわけですが、可能な範囲で概要を教えてください。

山川:

SKYACTIV-Zでは、前作で実用化したSPCCI方式による圧縮着火燃焼技術を進化させて、より薄い燃料でも燃焼可能なエンジンを目指しています。また新たな試みとして、遮熱に関する新技術を織り込む予定です。エンジンから逃げていく熱を逃さず動力に変換させて、熱効率をさらに向上させるような技術です。

ここまで進化しても内燃機関にはまだまだ改良の余地があるんですね。

山川:

遮熱は、先ほど触れた「熱効率改善のための7つの制御因子」の中でも唯一未着手だった部分なんです。詳しくはまだ公表できませんが、マツダオリジナルの新技術によって、どんな回転域や速度域でも高い熱効率を誇るエンジンにしたいと考えています。厳格化する排ガス規制に対応すると、従来のエンジンでは出力が約30%も低下するとされているのですが、SKYACTIV-Zは規制対応前と同等の出力が維持できる見込みです。エンジン単体で走らせたときにも今まで以上に低燃費、またモーターと組み合わせればさらなる相乗効果が得られる内燃機関にするというのがSKYACTIV-Zの狙いですね。

2.5L 直列4 気筒ガソリンエンジンのSKYACTIV-Z。厳しいエミッション規制である欧州ユーロ7 、北米LEV4 、Tier4 をクリアしながら、さらに高い次元の⾛⾏性能も両⽴させるエンジンとして開発が進行中。お客さまが確実に燃費とパフォーマンスの改善を実感できること、かつコストを抑えて量販価格帯で提供できることを目指している。

マツダが見すえるのは、リアルワールドで運転する上での、あらゆるエンジン回転速度域や車速域で高効率でクリーンな排ガスを実現し、なおかつ高出力なエンジンの実用化である。

SKYACTIV-Zは、マツダ独自のハイブリッドシステムと組み合わせ、2027年中に次期CX-5に搭載されデビュー予定。電動化技術と組み合わせることでより高い環境性能と走行性能を両立させるSKYACTIV-Zは、電動化時代のエンジンラインナップの中心となることが期待されている。

内燃機関を磨くマツダの電動化戦略

となると、より明確に電動化を視野に入れて開発された内燃機関がSKYACTIV-Zということになりますね。ではあらためて、マツダが考える自動車の電動化戦略とはどのようなものなのでしょうか。

山川:

電動化には内燃機関に頼らないバッテリーEVから、ストロングハイブリッド、プラグインハイブリッド、マイルドハイブリッドまでいろいろな選択肢がありますが、マツダはそのすべてを視野に入れた動力システムのマルチソリューションを展開しようと考えています。

 

マツダの内燃機関がもたらす「マルチソリューション」という提供価値。地域ごとのエネルギー事情、お客さまそれぞれのニーズ、ウオンツ、ライフスタイルを満たす適材適所のソリューションによって、より多くのお客さまとともに地球環境保全に取り組んでいく。

河野:

とはいえ現状では、すべてのクルマがバッテリーEVに置き換わる可能性は低い。その意味で、コツコツと内燃機関を突き詰めてきた歩みは正しかったと思います。エンジンが発電したモーターでタイヤを回すのであれ、モーターがパワーを補完したエンジンでタイヤを回すのであれ、ハイブリッドシステムにはエンジン(内燃機関)が必須。電動化と言ってもバッテリーEV以外は、やはり内燃機関ありきのソリューションとして考えていくことになる。その点、高効率の内燃機関があればその分モーターを小型化できるので、電動化に向けたコストも抑えることができるでしょう。

電動化時代においてはこれまで以上に、開発の効率アップと柔軟性、経済合理性の追求も不可欠になるかと思います。

河野:

すでにすべてのエンジンの制御用ソフトウェアを一元化するなど、効率化の試みを実践していますが、近年では「クルマ1台モデル」の活用を推進しています。これはエンジンだけでなく、燃焼、制御、空力などクルマ全体の構成要素をモデル化し、目指す機能・性能に向けてどの要素をどのように制御するのがよいかを検証し、設計段階で適正な「機能配分」を行おうというもの。スモールプレーヤーゆえに発展させてきた高度なシミュレーション技術で、開発のスピードアップと経済性を両立できるようになったんです。

カーボンネガティブに向けた取り組みとクルマの未来

マツダは内燃機関を通じて、カーボンネガティブに向けた取り組みにもチャレンジしていますね。

山川:

今は化石燃料が中心ですが、カーボンニュートラル燃料を使用することで相当量のCO2削減効果を期待できます。また排気管に「ゼオライト」というCO2を吸着してくれる物質を仕込んでCO2を回収する「カーボンキャプチャー」という技術の実験・検証を進めています。これらを組み合わせることで、理論上はカーボンネガティブが十分に達成できます。

ということは、走れば走るほど大気がきれいになるクルマもありえると。

山川:

たとえば2リッターのエンジンを1000回転で回すと、1分間におおよそ1000リッターの空気を吸っては排出していることになります。その過程で吸った空気よりもCO2が少ない空気にして排気できる仕組みを作れれば、内燃機関はなくすどころかあった方がいいという考え方になりますよね。汚い空気の中を走ることで空気をきれいにしてしまう「空気清浄器」のようなクルマだってありえる。そう考えると、むしろエンジン車は超環境配慮型のモビリティーになるんじゃないかなと……そんな夢も描けるようになっています。

では最後に、あらためて内燃機関の魅力と今後の展望を聞かせてください。

河野:

私の部下の世代の中には、「このまま内燃機関ばかり研究していていいのかな」と不安になる者もいました。でも私自身の経験や考えを伝える中で、「内燃機関にもまだやれることはあるんだ」と思ってくれる若手が増えています。内燃機関に明るいビジョンがある限りは、それをとことん追求していく。これがお客さまに対してのより良い価値提供にもつながると信じています。

山川:

私も広島大学で学生たちに教鞭をとっていますが、「大気をきれいにするクルマ」の話などをすると目を輝かせてくれますよ(笑)。内燃機関の魅力の一つとして、液体燃料を使う点があります。軽くてたくさんのエネルギーを発生させられる液体燃料のメリットは、ロードスターのようなライトウエイトスポーツカーに乗ったときの「走る歓び」にも直結するものですから。いずれは、マツダの内燃機関を積んだクルマに乗ることが、お客さまにとって「環境をきれいにしながら走っているんだ」という優越感につながる時代が来たらいいですね。

広島大学のエンジン実験室で教鞭をとる山川。2025年4月以降は広島大学に籍を置き、内燃機関のさらなる研究と若手技術者の育成に従事する。

マツダのエンジン実験室。厳格化する排ガス規制への対応によって、従来のエンジンでは、出力が30%低下するとされるが、SKYACTIV-Zは、規制対応前と同等の出力を維持していく。



編集後記

 

スモールプレイヤーのマツダが、内燃機関の領域でイノベーションを起こし続ける秘密の一つにマツダと広島大学の産学連携システムがある。広島大学で教鞭をとる山川は、2001年に内燃機関の研究で世界をリードする同大学で、燃料噴霧の混合気形成の研究で社会人博士を取得した経歴をもつ。以来、互いの人の交流も活発で、広島大学の取材に訪れた際も、社会人博士のマツダ社員が準備を手伝ってくれた。山川の教え子も内燃機関の夢に魅せられ、マツダに入社することが決まったという。同大学では、海外の最新論文の知見も吸収しながら理論の足場を固め、マツダのクルマづくりに実践し、技術に磨きをかける。人と専門知のポジティブなフィードバックルーブが回転し始め、様々な関係者の想いをのせたクルマへと結実した時、心ときめく体験、お客さまの豊かな暮らしへと広がっていく。取材を通して、前途ある若手たちが目を輝かせながら内燃機関に夢を抱いていることに希望をもった。内燃機関をめぐる物語、これから起こっていく変化に目を凝らし、マツダから最新の動向を伝えていきたい。

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