気候変動 (2050年カーボンニュートラルへの挑戦)


基本的な考え方

マツダは、クルマのライフサイクル全体でCO₂排出量削減に取り組むことの重要性を踏まえ、Well-to-Wheelとライフサイクルアセスメント(LCA)の視点を持ちながら、市場ごとのエネルギー源・発電形態、お客さまのニーズに応じて適材適所の選択肢を提供するマルチソリューションのアプローチによって、本質的なCO₂削減に貢献していきたいと考えています。また、生産・物流の領域においても、「エネルギー使用量の低減」と「エネルギーの多様化」を推進し、グローバルでの工場・オフィス・物流からのCO₂総排出量を削減していきます。これらの取り組みは、サプライチェーン全体での対応が不可欠であり、自治体や他産業と連携しながら推進していきます。

ライフサイクルアセスメント(LCA)

ライフサイクルアセスメント(以下、LCA)は、クルマの原料調達・製造・使用・リサイクル・廃棄までの各段階における環境への影響を算出し評価する手法です。マツダは、2009年よりクルマのライフサイクルにおける環境負荷低減の機会を特定する手段としてLCAを採用し、各段階における環境負荷低減に向けた活動に積極的に取り組んでいます。また、クルマの環境性能に関わる新技術においては、国際規格(ISO14040、ISO14044)に準拠した手法に基づき、客観性と信頼性を担保した評価を進めています。2018年度には、世界5地域における内燃機関自動車と電気自動車のライフサイクルでのCO₂排出量を評価しました。その結果、地域ごとの電力の状況や燃費・電費、生涯走行距離などによって、内燃機関自動車と電気自動車のライフサイクルでのCO₂排出量の優位性が変化することが分かりました。こうした結果を踏まえ、マツダでは、マルチソリューションの技術開発を進めています。

Well-to-Wheel

マツダは、走行時(Tank-to-Wheel)のみならず、燃料採掘・精製・発電時(Well-to-Tank)を含んだ「Well-to-Wheel」視点で、CO₂などの温室効果ガスの排出量削減に最も寄与できる状態にしたいと考えています。


目標

2050年サプライチェーン全体のカーボンニュートラルに挑戦

マツダは、2050年のサプライチェーン全体でのカーボンニュートラル(以下、CN)への挑戦を宣言しました。

2035年グローバル自社工場でのCNに挑戦

マツダは、2050年のサプライチェーン全体におけるCNに向けて、そのマイルストーンとして2035年にグローバル自社工場でのCNに挑戦します。その実現に向けては、グローバルでのCO₂排出量の約75%を占める国内の自社工場と事業所における中間目標およびロードマップを具体化しました。

2030年度国内の自社工場と事業所におけるCO₂排出量の削減

マツダは、「省エネルギーの取り組み」(省エネ)、「再生可能エネルギーの導入」(再エネ導入)、「CN燃料の導入等」(CN燃料導入等)の3本柱で、2030年度にマツダ国内自社工場・事業所でのCO₂排出量を2013年度比69%削減、非化石電気使用率75%にすることを目指します。


※ 本社・本社工場(広島県安芸郡および広島市)、防府工場(山口県防府市)、三次事業所(広島県三次市)を含む、国内全 17 拠点。

取り組み(生産・物流)

グローバル自社工場でのCNの実現に向けては、自治体や他産業などと連携し、以下の3つの柱で取り組みを進めます。また、国内での取り組みをモデルに、海外の工場においても最適なアプローチで進めていきます。

(1)省エネルギーの取り組み

省エネルギーの取り組みとして、設備投資判断の基準にインターナルカーボンプライシング※1を導入し、将来の炭素価格を考慮することで、CO₂排出量削減の効果が高い施策への投資を加速させます。また、これまで実施している生産およびインフラ領域と間接部門を含めた全社領域での取り組み、設備の高効率化、技術革新についても引き続き進めていきます。

省エネルギー・CO₂排出量削減への取り組み

【2023年度実績】

  • 国内の自社工場と事業所※2におけるCO₂総排出量:2013年度比22%削減(667千t-CO₂)※3、売上高当たりの排出量:2013年度比55.8%削減(18.3t-CO₂/億円)
    国内および海外の生産拠点では、設備稼働率の向上、サイクルタイムの短縮やエネルギーの製造から消費までの各段階でのロス削減活動を促進。また、「モノ造り革新」を通して、車両1台当たりに必要なエネルギーを削減。
  • 素材領域:鋳鍛造製品の薄肉化による素材重量、鍛造サイクルタイム短縮や溶解・熱処理設備能力のダウンサイジングによるエネルギー使用量を削減。
  • 加工および組立領域:従来のフレキシブル生産ラインを進化させることで、より高効率な混流生産を実現。ラインの整流化や集約・統合による効率的生産を追究。
  • プレス領域:プレス部品の生産段階で発生するスクラップ量削減、スクラップからの部品取りにより鋼板材料の使用量削減。複数の部品をひとつの金型から同時に成形するマルチプレス加工を実現し、工程集約の実現とともにエネルギー使用量を削減。
  • 塗装領域:塗膜機能の集約と高効率塗装技術によって実現した新水性塗装技術「アクアテック塗装」の防府第2工場への導入を完了。またグローバル生産拠点に展開し、エネルギーを削減するとともにVOC (揮発性有機化合物)の排出量を大幅に低減。

※1 企業内(インターナル)で定めた炭素価格(カーボンプライシング)による企業の低炭素投資や対策を推進する仕組み

※2 本社・本社工場(広島)、防府工場、三次事業所(広島県三次市)を含む全17拠点

※3 マーケットベース(環境省「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度」の係数で算出)

(2)再生可能エネルギーの導入

マツダは、再生可能エネルギー(再エネ)の導入拡大に向けて、本社工場宇品地区にあるMCMエネルギーサービス株式会社の発電設備の燃料を石炭からアンモニア専焼に燃料転換します。それに加え、広島本社工場への太陽光パネル設置や、各拠点における地域と連携したコーポレートPPAの活用、電力会社からの再生可能エネルギーなど非化石電源由来電力の購入を推進します。これらの施策により、2030年度時点での非化石電気使用率は75%となる計画です。

本社工場内発電設備の燃料転換(石炭からアンモニア専焼へ)
「波方ターミナルを拠点とした燃料アンモニア導入・利活用協議会」に参画

2023年4月、マツダは、愛媛県今治市所在の波方ターミナル※1のクリーンエネルギー供給拠点化に向けた検討を行うべく、三菱商事株式会社と四国電力株式会社を共同事務局とする「波方ターミナルを拠点とした燃料アンモニア導入・利活用協議会」(以下、協議会)を設置することに、四国電力株式会社、太陽石油株式会社、大陽日酸株式会社、三菱商事株式会社、波方ターミナル株式会社および三菱商事クリーンエナジー株式会社と合意しました。※2 協議会では、波方ターミナルの既存LPGタンクをアンモニアタンクに転換し2030年までに年間約100万トンのアンモニアを取り扱うハブターミナルにすることを想定のうえ、スケジュールや法規制上の課題の整理、効率的な波方ターミナルの活用、需要拡大策などについて検討を行っています。協議会は、官民一体となって波方ターミナルのクリーンエネルギー供給拠点化の実現を目指し、地域のクリーンエネルギー新産業の創出、ひいては地域経済の持続的な発展に貢献していきます。

 

※1 三菱商事株式会社および一部石油関連設備を太陽石油株式会社が保有、波方ターミナル株式会社が運営。

※2 愛媛県、今治市、西条市、新居浜市、四国中央市はオブザーバーとして協議会に参画。

太陽光発電の導入拡大

太陽光発電の導入実績

社内電力の再生可能エネルギー利用を進めています

  • 広島本社工場に太陽光パネルを設置し、2021年7月より太陽光発電設備の稼働を開始。発電した電力は、同工場で生産するMX-30 EVモデルのバッテリー充電などの生産工程に使用。
  • 三次事業所の電波実験棟屋上に太陽光発電を設置。得られた電力は施設の動力・照明などに使用し、CO₂排出量削減に継続的に貢献。
  • 防府工場の通路灯の一部に太陽光発電を導入。
  • メキシコのマツダデメヒコビークルオペレーションは、屋外のソーラー照明設置を実施し、太陽光発電とLEDを活用した再生可能エネルギーの効率的利用を促進。
  • 国内外の関係会社でも再エネ導入の動きが加速。太陽光発電設備の導入、CO₂排出の少ない電力の購入など、各社が計画的に実施。

【2023年度実績】

  • 広島本社工場での発電量:1,788MWh
  • 三次事業所での発電量:26MWh

 

環境データ(再生可能エネルギー使用量実績)


※ 太陽光・風力・地熱・水力・バイオマスなどによる発電や太陽熱などの、使い続けても枯渇しない自然由来のエネルギー源を指す。これらのエネルギーは、CO₂排出量がゼロか、極めて少ないという特徴を持つ。
 

地場企業と共に太陽光発電によるオフサイトコーポレートPPA契約締結

マツダは、再エネの新規開発を伴うPPA※1の導入に対して、地域産業との連携を優先し、国内の各拠点の地域特性に適した再エネ発電投資を推進していきます。既に、ステップ1として、株式会社東洋シート(以下、東洋シート)、長州産業株式会社(以下、長州産業)、中国電力株式会社(以下、中国電力)とオフサイトコーポレートPPA※2を締結し、2023年度より再エネ調達を開始しています。今後は、お取引先さまを含む地域事業者との連携を強化した、オンサイトコーポレートPPA※3、オフサイトコーポレートPPAの計画(ステップ2)、さらには地域産業一体となった事業へ規模拡大(ステップ3)し、地域の再エネ拡大を推進していきます。ステップ1の概要は以下の通りです。

2023年3月、カーボンニュートラル社会の実現に向け、再生可能エネルギー由来の電力(以下、再エネ電力)調達を進めるため、太陽光発電によるオフサイトコーポレートPPAに関する契約を、地場企業の東洋シート、長州産業、中国電力と共に締結しました。※4本契約では、長州産業が発電事業者となり、同社やマツダが中国地方に所有する未活用地へ太陽光発電設備を新たに設置し、発電した電力を中国電力へ売電します。中国電力は、東洋シートおよびマツダの2社へ、再エネ電力を供給しています。

複数の需要家が連携したオフサイトコーポレートPPAは、中国地域では初の取り組みで、2023年4月から順次、東洋シートおよびマツダの工場や事業所へ太陽光パネルの総発電出力約4,900kWの再エネ電力供給を開始しており、年間約2,610トンのCO₂削減につながっています。

 

※1 PPA(Power Purchase Agreement):電力販売契約

※2 オフサイトコーポレートPPA:発電事業者が電力需要施設と離れた場所に太陽光発電設備の設置を行い、小売電気事業者が電力系統を経由して太陽光発電設備で発電した再エネ電力を特定の需要家に長期にわたって供給する電力購入契約。

※3 オンサイトコーポレートPPA:企業が自社の敷地内に太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー発電設備を設置し、その発電設備から直接電力を購入する契約。

※4 本事業は、2030年の長期エネルギー需給見通しや野心的な温室効果ガス削減目標の実現に向けて、需要家が発電事業者と連携するなどのモデルの普及を図り、再生可能エネルギーの自立的な導入拡大を促進することを目的とした経済産業省による補助事業「令和4年度需要家主導による太陽光発電導入促進補助金」の採択を受けて実施するもの。

中国地域におけるカーボンニュートラル電力需給拡大に向けた取り組み

マツダは、再生可能エネルギーの導入を持続的に拡大させるためには、地域や産官学金の皆さまとの連携が重要だと考えています。そのため、2021年に「中国地域カーボンニュートラル推進協議会」の専門部会の一つである「カーボンニュートラル電力推進部会」に参画し、連携パートナーと協力しながら再生可能エネルギー由来の電力の需要拡大に向けたロードマップを策定しました。2023年よりロードマップ実現に向けた実証および実行ステージへ移行しています。

(3)カーボンニュートラル燃料の導入等

自社工場で使用する燃料をカーボンニュートラル燃料に転換するため、社内輸送等の車両で使用する燃料の軽油から次世代バイオ燃料への転換や製造工程でのバイオマス燃料化など、実現可能性の高い取り組みから着実に進めていきます。また、カーボンニュートラル燃料への転換を進めるためには、燃料を「つくる」「はこぶ」「ためる」「つかう」サプライチェーン全体での連携が必要不可欠であり、サプライチェーン上で関係するパートナーと共にカーボンニュートラル燃料導入に向けた取り組みを推進していきます。なお燃料転換が困難とされるエネルギー源については、中国地域をはじめとする地域のCO₂吸収を促進する森林保全や再造林などのJ-クレジットを活用していきます。

社内輸送などで使用するCN燃料の取り組み

株式会社ユーグレナの新株予約権付社債の引受
マツダは、株式会社ユーグレナ(以下、ユーグレナ)が実施する次世代バイオ燃料の普及拡大に向けた事業をサポートするため、同社が発行する無担保転換社債型新株予約権付社債の引受を2023年1月に決定しました。ユーグレナはバイオ燃料事業の商業化および、次世代バイオ燃料普及拡大のため、マレーシアにおいてバイオ燃料製造プラントを建設・運営するプロジェクトを海外エネルギー企業大手2社と共同検討していることを発表しました。なお、本プロジェクトで製造される次世代バイオ燃料の調達を視野に入れ、マツダ社内の物流などで活用する検討を進めています。

中国地域におけるカーボンニュートラル燃料需給拡大に向けた取り組み
中国地域におけるサプライチェーン構築を目的に、2021年に設立された「中国地域カーボンニュートラル推進協議会」の専門部会の一つで、2023年6月に発足した「カーボンニュートラル燃料推進部会」にて、連携パートナーと協力しながらカーボンニュートラル燃料の需要拡大に向けたロードマップを策定しています。2024年後半よりロードマップ実現に向けた実証および実行ステージへ移行していく予定です。

CO₂クレジットの活用など

J-クレジット
マツダと三井物産株式会社は、カーボンニュートラル社会の実現に向けて、日本政府が認証するJ‐クレジット制度に従い、適切な森林管理により創出されたJ-クレジットの売買契約を締結しました。マツダは、本クレジットを活用する初めての企業として、2022年度から2029年度までの8年間、森林保全によるCO₂吸収量をクレジット化したものを購入します。本クレジットは、拠点を構える中国地域におけるCO₂吸収量の推進や脱炭素化に貢献するとともに、地域の森林資源の保護・育成、産業発展・雇用維持にもつながることから購入を決めました。

物流領域 (社外輸送)での取り組み

社外でのクルマや部品などの輸送については、物流会社、販売会社、他の自動車メーカーなどと協働し、お客さまが必要とする量の商品や部品を適切なタイミングでお届けするとともに、サプライチェーン全体を通した高効率な輸送によりCO₂排出量の削減に取り組んでいます。

 

【2023年度実績】

  • 国内総輸送量:約4.8億t-km
  • 輸送量t-km当たりのCO₂排出量:2013年度比13.0%削減

環境データ(物流CO₂排出量実績)

物流CO₂排出量と削減率(国内)

サプライチェーンにおけるCO₂排出量把握範囲
物流の見える化

物流領域では、各プロセスで埋もれている物流をグローバルにきめ細かく「見える化」することにより、次の3つの領域におけるCO₂排出量削減活動に継続的に取り組んでいます。

1. 完成車輸送

国内・海外

マツダは、他社との共同輸送の推進により、国内の自動車海上輸送の輸送効率化と環境負荷の低減を進めています。国内での海上輸送では、代替燃料の活用検討を進めています。海外への自動車海上輸送についても、満船輸送による積載台数向上に加え、新規就航した環境対応船である液化天然ガス(LNG)船を積極的に活用することで、CO₂排出量の削減を進めています。その他にも将来のさらなる脱炭素化に向けて、船社、物流会社、エネルギー関連会社、地方公共団体などとの協議・検討を進め、中長期的にカーボンニュートラルを実現するための技術、燃料、設備などを見極めていきます。

2. 補修用部品輸送

国内

マツダは、モーダルシフト率の向上や、海外向け部品輸送用の大型リターナブル容器を国内輸送に転用し、JRコンテナへの積載率を向上させることにより、補修用部品輸送時のCO₂排出量削減に貢献しています。また、補修用のバンパーと一部の板金部品を東海地区での生産に切り替え、本社工場へ持ち帰ることなく直接名古屋港から海外に出荷することで横持ち輸送を廃止しました。


海外

マツダは2023年に、日本で生産している補修用バンパーの生産をメイン消費地である米国での生産に移し、輸送距離を大幅に短縮しました。

【2023年度実績】

  • 補修用バンパーの生産拠点変更により約115トンのCO₂排出量削減
3. 生産調達部品輸送

国内

マツダは、国内での生産調達部品を輸送するトラックについて、2016年よりクラウド型輸配送進捗管理サービスを導入し、輸送時の納期短縮・コスト削減・品質向上のほか、ドライバーの負担軽減、交通渋滞の緩和、効率的な輸送によるCO₂排出量の削減などの効果を上げています。また、このシステムの活用と合わせて荷役作業の見直しを行うことで、トラック回転率の向上や、工場内でのトラック待機時間の短縮にも取り組んでいます。

海外組立工場向け部品については、国内お取引先さま・各生産工場で梱包を行うことで、物流拠点を経由しないストレートな輸送の拡大を進めています。そして、広島本社工場および防府工場で生産している海外生産工場向けエンジン、トランスミッション、車体部品まで領域を拡大しています。また、JR貨物輸送の利用拡大やフルトレーラーの導入、納品トラックへの代替燃料の導入検討にも継続して取り組み、カーボンニュートラル実現を目指していきます。

海外

マツダは、海外組立工場向けに日本からコンテナで輸送する梱包について新標準容器の導入を進めています。これにより、コンテナ内の空きスペースを解消し、コンテナ本数の削減、輸送トラック便の削減が可能になります。また、海外生産工場が必要とするタイミングに合わせて部品を輸送することで、余剰となる部品の在庫削減にも取り組んでいます。さらに将来を見据え、CO₂排出量の少ない代替燃料をコンテナ運搬船に導入すべく船社と協議しています。これらを進めることで、CO₂排出量の削減を目指していきます。

※ ドコモ・システムズ(株)が開発した「物流企業向けクラウド型輸配送進捗管理サービス」

取り組み(商品・技術)

カーボンニュートラル実現に向けた車両開発の取り組み

2030年に向けては、各国・地域の環境規制動向やお客さまのニーズなどに柔軟に対応するため、3つのフェーズに分けて商品・技術開発に取り組んでいきます。

2030年に向けた電動化戦略

2030年頃までのEV時代への移行期間には、内燃機関、電動化技術、代替燃料などさまざまな組み合わせとソリューションを持ち地域の電源事情に応じて、適材適所で提供していく「マルチソリューション」のアプローチが有効と考えています。一方、各国・各地域の電動化政策や規制の強化動向を踏まえ、私たちは2030年のグローバルにおけるEV比率の想定を25~40%としています。2021年末より、規制動向やエネルギー危機、電力不足などさまざまな変動要素が顕在化しています。また、それらの今後の進展は不透明であるため、規制動向の変化や消費者のニーズ、受容度、社会インフラの開発状況などの今後の変化に柔軟に対応できるよう、以下の3つのフェーズに分け、段階的にパートナー企業と共に電動化を進めていきます。

  • 第1フェーズ(2022~2024年):既存の技術資産である「マルチ電動化技術」をフルに活用して、魅力的な商品を送り出し、市場の規制に対応していきます。このフェーズでは、ラージ商品群を投入し、プラグインハイブリッド(PHEV)やディーゼルのマイルドハイブリッド(MHEV)など環境と走りを両立する商品で収益力を向上させ、さらにバッテリーEV(BEV)専用車の技術開発を本格化させます。

  • 第2フェーズ(2025~2027年):電動化への移行期間における燃費向上によるCO₂削減を目指し、これまで積み上げてきた技術資産を有効に使った「新しいハイブリッドシステム」を導入するなど、マルチ電動化技術をさらに磨いていきます。また、電動化が先行する中国市場においてEV専用車を導入するなど、グローバルにEVの導入を開始します。さらに、電動化の進展に向け、電動駆動ユニットの高効率な生産技術の開発やインバーターの共同開発など、パートナー企業との協力を進めます。

  • 第3フェーズ(2028~2030年):バッテリーEV専用車の本格導入を進めるとともに、外部環境の変化の大きさや自社の財務基盤強化の進捗を踏まえ、電池生産への投資なども視野に入れた本格的電動化に軸足を移していきます。

これら3つのフェーズを通じて、地域特性と環境ニーズに適した電動化戦略を着実に進め、地球温暖化抑制という社会課題の解決に貢献していきます。

商品・技術開発

マツダ車のCO₂排出量削減・燃費向上の目標達成に向け、マツダは、基盤となる技術群をブロックとして段階的に積み上げることで優れた技術を効率的にお届けする「ビルディングブロック構想」を構築しています。そして、これに基づき、一括企画やコモンアーキテクチャーなどによる効率的な開発、生産を通じ、マルチソリューションの展開を進めています。このビルディングブロック構想と モデルベース開発モノ造り革新などのプロセス革新の進化により、限られた経営資源の中で、お客さまの期待を超える商品・技術を提供します。


電動化時代の新たなロータリーエンジン開発

マツダは、ロータリーエンジンを発電機として使用するシリーズ式プラグインハイブリッドモデル「MAZDA MX-30 Rotary-EV」を2023年に発売しました。マツダ初の量産バッテリーEVとして2020年に導入し、マイルドハイブリッドモデル、そして新たにプラグインハイブリッドモデルをラインアップに加えたMX-30は、まさにマツダがカーボンニュートラルの実現に向けて推進するマルチソリューションを体現するモデルです。MX-30 Rotary-EVは、その走行の全てをモーターで駆動し、日常の幅広いシーンにおいてバッテリーEVとして使える107kmのEV走行距離※1を備え、ロータリーエンジンによる発電によってさらなる長距離ドライブにも対応しています。 今回新たに開発した発電用ロータリーエンジンは、必要とされる出力性能をコンパクトに実現できるという特長を生かし、高出力モーター、ジェネレーターと同軸上に配置してモータールームに搭載しています。そして、このコンパクトな電動駆動ユニットと、17.8kWh※2のリチウムイオンバッテリー、50Lの燃料タンクを組み合わせることで、独自のシリーズ式プラグインハイブリッドシステムを実現しました。


MX-30 Rotary-EV (日本仕様)  

e-SKYACTIV R-EV電動駆動ユニット


2023年10月には、コンパクトスポーツカーコンセプト「MAZDA ICONIC SP(マツダアイコニック エスピー)」を世界初公開しました。MAZDA ICONIC SPは、「クルマが好き」という気持ち、「純粋に楽しいクルマがほしい」というお客さまの気持ちに応える、新しい時代に適合した、新しいジャンルのコンパクトスポーツカーコンセプトです。MX-30 Rotary-EVのEVシステムをベースに、2ローターRotary-EVシステムを採用しています。ロータリーエンジンは、水素などさまざまな燃料を燃やすことのできる拡張性の高いエンジンです。ロータリーエンジンがカーボンニュートラル燃料を使って回り、搭載バッテリーは再生可能エネルギー由来の電力で充電されると、実質カーボンニュートラルでの走行が可能となります。

MAZDA ICONIC SP(マツダアイコニック エスピー)

 

※1 「EV走行換算距離(等価EVレンジ)」。定められた試験条件下での数値であり、実際の走行条件などにより異なります。また、ドライバーが急加速を意図してアクセルペダルをある一定の位置以上に深く踏み込んだ場合(一般的なAT車におけるキックダウンスイッチの機能に相当)などは、必要な出力を得るために発電システムが作動して発電を行うことがあります。

※2 自社調べ。

3.3L 直列6気筒ディーゼルエンジン SKYACTIV-D

2022年9月にCX-60で初披露した大排気量3.3L 直列6気筒ディーゼルエンジンは、運転する誰もが愉しく笑顔になる「走る歓び」と抜群の燃費とクリーン排気による「優れた環境性能」の両方をこれまでにない高いレベルで実現しています。実用域の幅広い範囲で熱効率40%以上を実現していることに加え、大排気量化によって、空気量の増加による高出力化、排ガス再循環(EGR)量の増加による排気ガス(NOx)低減を同時に実現しています。また直列6気筒による静粛性と低振動かつアクセル操作に応じた心地よいエンジンサウンドが走る歓びをさらに向上させています。

「MAZDA EZ-6」

2024年4月、マツダは、新型電動車「MAZDA EZ-6(マツダ・イージーシックス)」と新型電動車のコンセプトモデル「MAZDA 創 ARATA(マツダ・アラタ)」を、北京モーターショー2024において初公開しました。EZ-6は、マツダと合弁事業のパートナーである重慶長安汽車股份有限公司の協力のもと、長安マツダが開発・製造を行う新型電動車(新エネルギー車)の第1弾であり、2024年10月末に中国で販売を開始しました。また、同時に公開されたコンセプトモデル「MAZDA 創 ARATA」は、第2弾の新型電動車として2025年中に量産化し、中国市場に導入予定です。急速に電動化が進む中国において、より多くのお客さまに選んでいただけるよう、電動化商品ラインアップを拡充していきます。

EZ-6(市販予定車:エアログレーメタリック外板色)

MAZDA 創 ARATA

カーボンニュートラル燃料の普及拡大に向けた取り組み

マツダは、商品を通じたCNの実現に向けて、ハイブリッド車(HEV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)などに使用するCN燃料(次世代バイオ燃料、合成燃料など)の普及拡大に取り組んでいます。

次世代バイオ燃料の普及拡大に向けた取り組み

次世代バイオ燃料は、トウモロコシなどの食料を原料とした従来型のバイオ燃料とは異なり、食料競合や森林破壊といった問題がなく、持続可能性に優れています。また、従来型のバイオ燃料(バイオエタノールやFAME)とは異なり、ガソリンや軽油と同じ炭化水素燃料であるため、石油由来燃料からの100%代替が可能な燃料として期待されています。 

※FAME (Fatty Acid Methyl Ester): 脂肪酸メチルエステル。植物油や動物脂肪を原料として製造される燃料の一種。軽油に似た特性を持ち、環境に配慮したディーゼル燃料として広く利用されています

バイオ燃料を「つくる」

「次世代グリーンCO₂燃料技術研究組合」への参画

マツダは、ENEOS株式会社、スズキ株式会社、株式会社SUBARU、ダイハツ工業株式会社、トヨタ自動車株式会社、および豊田通商株式会社によって設立された「次世代グリーンCO₂燃料技術研究組合(以下、本研究組合)」への参画を2023年3月に発表しました。本研究組合がカーボンニュートラル実現の多様な選択肢の一つとして推進する、バイオエタノール燃料の製造技術の向上や、製造時に発生するCO₂の活用に関する研究などが、マツダが推進する、マルチソリューションの選択肢を広げる考えと一致しており、本研究組合への参画を通じてCN燃料の可能性拡大に尽力していきます。

微細藻類の研究

微細藻類には、食用油の原料となる植物資源と比較して、単位面積当たりの油脂生産能力が高いという特長があります。マツダは、次世代バイオ燃料の大量生産にはこうした微細藻類の大量培養が有効と考え、産学官連携による微細藻類の研究を進めています。
具体的な取り組みとしては、2017年に、広島大学大学院がマツダとの共同研究講座として「次世代自動車技術共同研究講座 藻類エネルギー創成研究室」を開設。2021年からは、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が推進する「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」の支援を得て、広島大学や東京工業大学と共に、ゲノム編集技術などを用いた藻類高性能化研究を継続しています。また、2020年には、広島県大崎上島町に拠点をもつ一般社団法人日本微細藻類技術協会(IMAT)に、2022年にはNEDOのグリーンイノベーション基金にも採択されたコンソーシアムMATSURIに入会し、微細藻類の産業利用と関連技術の開発を研究者や事業者と共に推進しています。
微細藻類は、CO₂を吸収し、光合成をおこなう一方、窒素やリンなどの栄養源も吸収して増殖します。窒素やリンは自動車製造工程からも排出されているため、マツダでは構内の水資源再生センターで浄化処理を行っています。本来は廃棄されるこれらの資源を価値あるものとして循環させることを目指して、2023年から、屋外の微細藻類培養設備を活用し、微細藻類によるCO₂削減効果や排水の浄化能力を検証しています。また、微細藻類は細胞内に豊富な脂質やタンパク質を蓄える性質を持ち、次世代バイオ燃料以外にも人々に必要な栄養資源としての活用も期待されています。今後もマツダは、微細藻類が持つ様々な可能性を追求し、瀬戸内海に面した温暖な気候や日照時間を活かした資源循環型のエコシステムを構築していきます。

バイオ燃料を「つかう」

次世代バイオディーゼル燃料の実証

マツダは、実証を通じて次世代バイオ燃料の普及拡大に取り組んでいます。マツダが参画するひろしま自動車産学官連携推進会議(ひろ自連)と株式会社ユーグレナは、2018年に 「ひろしま “Your Green Fuel” プロジェクト」を共同で立ち上げ、広島で次世代バイオディーゼル燃料の原料製造・供給から利用に至るまでのバリューチェーン(地産地消モデル)構築を目指して取り組んでいます。2020年からディーゼルエンジンを搭載したマツダの社用車で実証を継続しています。2021年からは、日本のモータースポーツの一つであるスーパー耐久シリーズへの参戦、2022年からは、サンフレッチェ広島ホームゲームでの選手バス利用などを通じて、次世代バイオディーゼル燃料の実証を拡大しています。マツダは、今後も次世代バイオ燃料の原料調達・燃料製造・供給から利用に至るバリューチェーン上のパートナーと共に、次世代バイオ燃料をはじめとしたCN燃料の普及拡大に向けた取り組みを継続していきます。


MAZDA SPIRIT RACING MAZDA3 Bio concept

合成燃料の普及拡大に向けた取り組み

合成燃料は、大気中のCO₂を原材料として、人工的にガソリンや軽油の製造が可能な燃料です。石油由来燃料からの100%代替が可能であり、持続可能な次世代の燃料として期待されています。 

ENEOSスーパー耐久シリーズ2023 Supported by BRIDGESTONEの第4戦オートポリス大会では、ガソリン代替カーボンニュートラル燃料を使用する「MAZDA SPIRIT RACING ROADSTER CNF concept」で参戦しました。

MAZDA SPIRIT RACING ROADSTER CNF concept (12号車)