JMS 2025「走るほど地球がきれいになる?」 MAZDA VISION X-COUPEが描く未来の走る歓び

技能伝承者と若手技能者
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走れば走るほど、CO₂が減っていく——。そんな未来を描き、マツダは実現への道を歩み始めています。

 

『Japan Mobility Show 2025』で、マツダは「MAZDA VISION X-COUPE(マツダ ビジョン クロスクーペ)」を初披露しました。2ローター・ロータリーターボエンジンとモーター、バッテリーを組み合わせたプラグインハイブリッドシステムを搭載。「走る歓びこそが、社会と地球の未来をよくする力になる」そう信じて、皆さんの「クルマ好き」「いつまでも運転していたい」という想いを叶え続けるために生まれたビジョンモデルです。

 

思うままに運転を楽しみながら、走るほど地球がきれいになる。本当にそんなことが可能なのでしょうか? マツダの最高技術責任者を務める梅下隆一(うめした・りゅういち 専務執行役員兼CTO)と、カーボンニュートラル燃料の研究をする次世代環境技術研究部門の市川和男(いちかわ・かずお)に聞きました。大のクルマ好きでもある二人が、MAZDA VISION X-COUPEに込めた思いとは? マツダの出展テーマ「走る歓びは、地球を笑顔にする」を実現するための課題や、それをクリアした先にあるクルマの未来とは?


左から、梅下隆一(うめした・りゅういち 専務執行役員兼CTO(最高技術責任者)と次世代環境技術研究部門の市川和男(いちかわ・かずお カーボンニュートラル研究者)


走るほど、地球がきれいになる「MAZDA VISION X-COUPE」が描く未来とは?

マツダの出展テーマである「走る歓びは、地球を笑顔にする」という言葉に込められた思いを聞かせてください。

梅下:

マツダはずっと「走る歓び」という言葉を掲げ、走りや乗り心地にこだわった「運転していて気持ちいいクルマ」を追求し続けてきました。この思いは今後も変わりません。ただ、企業として環境に対して貢献していく責任は、より重くなっています。また、お客さまに対しても、地球に優しい、社会にもしっかりと貢献している会社がつくるクルマでなければ純粋に楽しんでいただくことはできないのではないか。いつしか、そう考えるようになりました。

 

マツダが大切にしてきた「走る歓び」をこれからも、心の底から感じていただきたい。この思いをかたちにしたのが「MAZDA VISION X-COUPE」であり、「走る歓びは、地球を笑顔にする」というテーマになります。

環境と一体化する、研ぎ澄まされた美しいフォルム。微細藻類由来のカーボンニュートラル燃料で駆動。さらに、CO₂回収技術で走るほど大気中のCO₂を削減。ロータリーエンジンを搭載したクルマ好きもワクワクしながら乗れる未来のモビリティを具現化するモデル

クリーンなエネルギーを使って「地球を汚さない」というだけでなく、「笑顔にする」。これまでより一歩踏み込んだメッセージに聞こえます。

梅下:

おっしゃるとおり、これまでは環境負荷を少なくすること、ネガティブな要素を減らしていくことを目指してさまざまな技術を開発してきました。今回はさらに一歩踏み込んで、走れば走るほど「笑顔になる」。つまり、「クルマを走らせるほど大気中のCO₂を減らし、地球環境にポジティブな影響を与えられる」ことを目指します。

 

そして、このポジティブな感覚があるからこそ、「走る歓び」をよりいっそう心から、純粋に楽しめる。自分の楽しみが社会や地球にもよい影響を与えられるというメッセージを打ち出しています。

 

夢物語に聞こえるかもしれませんが、これを実現するための技術が揃ってきた、可能性が見えてきたということで、このたびビジョンモデルのお披露目に至りました。

梅下隆一(うめしたりゅういち)1988年入社。商品、カスタマーサービス、グローバルマーケティング、マツダモーターオブアメリカ, Inc.など幅広い領域にて役職を歴任。現在は専務執行役員兼CTO(最高技術責任者)として、研究開発、ものづくり変革などに取り組む。愛車はロードスター、休日にはカスタマイズしたロードスターでレースを楽しむ

MAZDA VISION X-COUPEに盛り込まれた具体的なアイデア、技術について教えてください。

市川:

走れば走るほど「地球を笑顔にする」を実現するために、2つの技術が盛り込まれています。「微細藻類由来のカーボンニュートラル燃料」と「CO₂回収技術」です。

市川和男(いちかわ・かずお)。2004年に入社後は、エンジンの高効率化や省燃費エンジンの開発に携わる。2020年、菅元首相のカーボンニュートラル達成目標の宣言をきっかけに、微細藻類を利用した持続可能な燃料の研究に取り組み始める

微細藻類由来のカーボンニュートラル燃料とはどのようなものですか?

市川:

植物由来のバイオ燃料の一種です。化石燃料と同様、走行中にCO₂を出しますが、原料となる藻類の成長過程で光合成を行ってCO₂を吸収するため、排出量が実質ゼロになるのです。

 

バイオ燃料自体は、海外では一般のガソリンスタンドでも販売されるなど普及しつつあるのですが、微細藻類はトウモロコシなどの一般的なバイオ燃料などとくらべ、油の蓄積性能が極めて高く、限られたスペースで効率的に燃料を生成することができるため、注目を集めているんです。

(左)培養層で育つ微細藻類。植物と同じように光合成をする小さな生き物。光を浴び二酸化炭素を取り入れて、バイオ燃料に変換可能な油脂を生成する。  

(右)微細藻類から油を抽出する装置。抽出後の微細藻類の残渣。抽出した油

市川:

今回は、このバイオ燃料に加え「CO₂回収技術」が搭載されている点が革新的といえます。簡単に言うと、大気中のCO₂を吸収し、微細藻類を育てるだけでなく、走行中に排気ガスから出るCO₂を回収する。さらに回収したCO₂を再び微細藻類の成長につなげたり、トマトやイチゴなどの農作物の成長促進や自動車部品として使われる高性能カーボン素材などへ再利用したりすることができます。

 

つまり、カーボンニュートラルどころか、「走れば走るほどCO₂が減っていく」というカーボンネガティブが実現でき、さらには、CO₂を排出物から大切な資源に変えるという、持続可能なサイクルを回すことができるのです。

CO₂回収技術装置「Mazda Mobile Carbon Capture(マツダ モバイル カーボン キャプチャー)」

「カーボンニュートラル燃料×CO₂回収技術」でカーボンネガティブを実現

まさに夢の技術ですね。「微細藻類由来のカーボンニュートラル燃料」と「CO₂回収技術」、それぞれについて、もう少し詳しく教えていただけますか?

市川:

この燃料は、ナンノクロロプシスという直径2〜5ミクロンの藻類を原料にしています。ナンノクロロプシスはほかの微細藻類と比べても脂質の生産効率が非常に高く、軽油と近い性質を持った油を取ることができます。さらに、そこからガソリンをつくることもできる。比較的低コストで、多くのバイオ燃料を生産できる可能性を持った技術ですね。

 

ナンノクロロプシスにはEPAやDHAといった健康効果が期待できる成分が含まれるほか、タンパク質、アミノ酸、ビタミンも非常に豊富です。魚にはEPAがたくさん含まれていますが、これはナンノクロロプシスを食べているからなんですよ。加えて、油を取り出したあとに残る「残渣(ざんさ)」の活用にも注目しています。

JMS会場の展示ブース。微細藻類は、カーボンニュートラル燃料だけでなく、食品やサプリメント、家畜の飼料など様々な活用用途がある

残渣は、どのような活用が考えらえますか?

市川:

残渣を原料に食品やサプリメントをつくったり、家畜の飼料として活用したりなどですね。たとえば、地元・広島の地場産業である牡蠣の養殖に使えたら、地産地消という意味でも非常に意義深い取り組みになるのではないかと。こうした、さまざまな価値を踏まえ、マツダでは2020年頃から研究を続けてきました。

 

とりわけ、日本のようにエネルギー自給率や食料自給率に課題を抱える国では、こうしたアプローチによって、エネルギーと食料をつなげて解決する「循環型社会」の実現が大切だと思っています。 

梅下さんは市川さんの研究を、どうご覧になっていましたか?

梅下:

社内で微細藻類の研究が進められていることは、以前から耳にしていました。今回、ビジョンモデル製作にあたり詳しく話を聞いて、改めて夢のある話だなとすごくワクワクしましたね。今は、1000Lの培養槽から約2週間で1L以上の燃料を精製する理論目標に到達していて、着実に前進しています。マツダとして今後もこの技術を大切に育てて、社会にこんな可能性があることを示していかなければいけないと思っています。

市川:

一方、CO₂回収技術については、CO₂を吸着する技術を応用し、クルマの排気管からCO₂を回収します。まだ課題はありますが、すでに実証実験レベルの技術は確立できていますので、これから実用化に向けて本格的な検証に入っていくところです。


梅下:

大きなストーリーとしては、まず、微細藻類がCO₂を吸収した燃料をつくることによって約90%、CO₂排出量を削減します。さらに、CO₂回収装置を使えば、排気ガス中のCO₂を20%回収でき、合わせて110%。つまり、この組み合わせで大気中のCO₂の10%のカーボンネガティブを実現することができるというものです。


内燃機関だからこそ、カーボンニュートラル燃料とCO₂回収装置の組み合わせで、カーボンネガティブが可能となる技術

ロータリーエンジンの進化。「走る歓び」を新時代のかたちで

ロータリーエンジンというと、マツダが世界で初めて量産に成功した技術として知られています。

梅下:

そうですね。ロータリーエンジンは回転の独特なフィーリング、走らせたときの心地よい音と振動が特徴で、まさに「走る歓び」を味わうことができるエンジンです。マツダとしても特別な思いを持つ技術ですが、排気ガスなどによる環境への影響を鑑みて、2012年に量産を終了しました。

 

しかし、「もう一度、ロータリーエンジンを復活させる」という決意のもと2024年初めに再びプロジェクトチームが始動。課題克服しつつ魅力を増した、新しいロータリーエンジンの開発を進めています。発電機としては、欧米などの厳しい環境規制をクリアできる目処がようやく立ってきたため、思い切って今回のビジョンモデルにも搭載することにしました。クルマ好きの方でしたら、エンジニアのロータリーエンジンへの熱い想いを感じていただけるのではないでしょうか!


目が輝いていますね! 

梅下:

やはり、クルマを走らせているときの音や振動というのは、気持ちを昂らせてくれたり、特別な気持ちにさせてくれたりしますからね。アクセルを踏むと振動でクルマが応えてくれて、加速音とともにスピードが上がっていく。五感に訴えかけるフィーリングは「走る歓び」の重要なエレメントになるはずです。

 

それを環境に優しいかたちで実装していくという意味では、MAZDA VISION X-COUPEは環境への貢献と、走る歓びをかつてないレベルで両立させた一台と言えるのではないでしょうか。


MAZDA VISION X-COUPEに搭載するロータリーエンジンは、発電機ではなく直結駆動(直結)で使われる予定

市川:

じつは私も、マツダの新しいロータリーエンジンには非常に期待している一人です。研究者である前に、大のクルマ好きでもあるので(笑)。梅下さんがおっしゃるように、音や振動はクルマ好きにとって重要な要素。「これから行くよ」という気持ちにさせてくれて、走る歓びを感じる起点になるのではないかと思います。

二人を突き動かす「クルマ愛」

梅下さん、市川さん自身も大のクルマ好きであると。クルマにぐっと心を掴まれるきっかけはどんなことだったのでしょうか?

梅下:

じつは35歳くらいまでは、さほどクルマに関心を持っていなかったんです。お酒が唯一の趣味で、給料の多くを飲み代に使っていました(笑)。きっかけはアメリカに赴任していたときに、ロードスターに乗る機会があって、「こんなに楽しいクルマがあるのか」と衝撃を受けたんですよ。運転することが純粋に楽しいと思えるクルマに出会ったのは、それが初めてでした。

梅下:

日本に帰国後、さっそくロードスターを購入し、いろんな場所へ出かけるようになりました。晴れた日に屋根を開けて走っていると、せせらぎの音の心地よさを感じたり、同じ木や植物でも季節によって微妙な変化が見て取れたり、これまでには見過ごしていた些細なことに気づくようになります。

 

また、行動範囲が広がると、さまざまなことにチャレンジしたくなるんです。クルマが僕の人生を変えてくれたというか、豊かにしてくれたと心から思っています。

市川:

とても共感します。私も免許を取ってクルマを運転するようになったときに、「自由」を感じました。目的地に向かう途中で面白いものを見つけたら気まぐれに立ち寄ってみたり、気分でルートを変えてみたり。自分の意思で行動している感覚があった。ただの移動ではない、クルマならではの楽しさを知りましたね。

じつは市川もロードスターを愛する一人。「以前はNC型、NB型に乗っていましたが、今はMAZDA CX-30に乗っています」とのこと

梅下:

僕はずっとロードスターに乗っていますが、MAZDA VISION X-COUPEが実用化されたらそっちも気になる。ロードスターとMAZDA VISION X-COUPEの二台持ちになるかもしれません。近距離はロードスターで、遠くまで行くときはMAZDA VISION X-COUPEで、みたいな使い分けをしたら、カーライフがさらに楽しいものになりそうな気がします。

「いつまでも運転をしていたい」という想いを叶え続ける

MAZDA VISION X-COUPEは未来を象徴するビジョンモデルという位置付けですよね。これら技術の実用化・量産化に向けて、次なるステップはどのようなものがありますか?

梅下:

まずは、やはりロータリーエンジンですね。グローバルの環境基準をクリアする技術的な目処は立ってきたとはいえ、お客さまが期待するロータリーらしい魅力を持たせつつ各国の規制に準拠するためには、もう少し時間がかかると考えています。

 

次にCO₂回収技術です。現時点、CO₂吸着剤を用いてCO₂を排気ガスから分離できることを実験上確認できており、今年の「スーパー耐久シリーズ*」の最終戦でCO₂回収技術の実証実験を始めます。市場に投入するためには技術、ビジネスの両面でいくつかのハードルがあるため、一つ一つみんなで乗り越えていきたいと思っています。

 

*『ENEOSスーパー耐久シリーズ2025 Empowered by BRIDGESTONE』。市販車をベースにした車両で、1台につき複数のドライバーで交代しながら長時間を走りきる耐久レースシリーズ

市川:

微細藻類由来の燃料については、まず価格ですよね。ただ、近年の研究により、藻類の油の生産性を高める技術や、効率的に燃料生成を行う技術も進化してきて、コストを下げられる目処も立ってきています。加えて、油だけではなく残渣もうまく活用・販売することで、相対的にコストを抑えられるような方向性を模索しているところです。

 

ほかにも、微細藻類を大量に育てるためには大型のプールが必要です。野外は天候に左右されやすいため、安定的につくることを模索しています。油の量や質といったパフォーマンスを下げることなく、大量生産ができるようになればと思っています。

もちろん簡単ではないと思いますが、「走る歓びは、地球を笑顔にする」が実現されることを、多くの人が待ち望んでいると思います。

市川:

今回、微細藻類由来の燃料をビジョンモデルに乗せることができました。そのことは、一人の研究者としても、非常にうれしく思っています。それと同時に、早くみなさんに使っていただけるようにしなくては、と身が引き締まる思いです。ドライビングを楽しみながら、地球をきれいにできる。だからこそ、また遠くにいきたくなり、新しい出会いが生まれる。そんな体験をお客さまに届けられたらと思います。

梅下:

いま、私たちは「走ることの意味」を問われているのではないかと思います。決められた時間に目的地まで辿り着くだけならクルマでなくてもいい。それでも自分で運転するのは、そこにドライバーの強い意思があるからです。自らの意思でクルマを操作し、自らの意思で寄り道をして、能動的に楽しみを見つけていく。この行為は気持ちをポジティブにし、人生を豊かにしてくれると思うんです。

 

今回、MAZDA VISION X-COUPEに搭載した技術が実用化され、すべてのマツダ車で「走る歓びは、地球を笑顔にする」を実現できたら、クルマの運転を楽しみながら「環境に貢献している」という誇らしい気持ちにもなれる。そんな未来を目指して、これからも「走る歓びは、地球を笑顔にする」ためのチャレンジを続けていきたいですね。

編集後記

 

MAZDA VISION X-COUPEに搭載された技術には、人の価値観を変える可能性があると感じました。これまで「エコ」と聞くと、「我慢」を強いられるイメージもあったのですが、「走れば走るほど地球のためになる」のであれば、運転がこれまで以上に前向きで楽しいものになる予感がします。今回発表した技術が未来の多くのクルマに搭載され、「走る歓びが、地球を笑顔にする」そんな誇らしい2035年が来るのが楽しみです。


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