グランツーリスモプレーヤーが、リアルのレースに挑戦。 共に挑む、あの日諦めた夢のスタートラインへ

a Pride of Hiroshima
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サーキットを走る、自分の姿を想像したことはありますか。

胸の高鳴りと共にスタートを切り、ライバルとコーナーを争い、ピットの仲間と勝敗の喜び、悲しみを分かち合う。

多くの人が、想像したこともない。もしくは、憧れても自分には関係のないものだと考えてはいないでしょうか。

クルマは、様々な楽しみ方ができます。しかし、その中でも「サーキットにしかない興奮と歓び」があるとマツダは考えています。そして、その魅力をプロだけではなく多くの人々に伝えたい。

MAZDA SPIRIT RACINGはその理念のもとで生まれました。

マツダもチームとして挑戦しながらも、パーティーレースの開催をはじめ、多くの人々がレースに参加しやすい機会を作り、挑戦をサポートする。

「共に挑む」というスローガンは、「マツダはチャレンジしたい人と肩を並べ、同じ方向を見て進むのだ」という精神そのものです。

 

今回紹介するのは、その取り組みの一つ「MAZDA SPIRIT RACING チャレンジプログラム〜バーチャルからリアルへの道〜」です。

ゲーム『グランツーリスモ※1』のプレーヤーを、レーサーとして迎え入れリアルのレースへのチャレンジの機会を作ります。

3年目となる今年は、およそ9,000人もの挑戦者の中から6人が選ばれ、リアルのレースに1年間挑戦することとなりました。

6人それぞれが秘める、レースにかける想いとは。

彼らを迎え入れる、マツダの願いとは。

始まった彼らの戦いを、取材しました。


瀬川 彰斗(せがわあきと)さんは、元々お小遣いを貯めてハンドルやシートを購入していましたが、コロナ禍の自粛期間に本格的にeモータースポーツにチャレンジ。頭角を表しました。

サーキットを遠くに感じていた6人

モータースポーツの世界は、ハードルが高く思われがちです。

実際、子どものときからカートで成績を残していかなければ、入ることはできない世界ではないか。今回選ばれた6人も、そう考えていました。

 

大学生の市原 拓真(いちはら たくま)さんは、選ばれた時には、まだ免許を取得しておらず、選出をきっかけにMT免許を取得しました。レースどころか、実車も初挑戦です。

市原:

子どもの時から、クルマが大好きでした。そこから、自然な流れでレーサーになりたいと思うこともありました。


市原 拓真(いちはら たくま)さん




お父さんの影響で、クルマが大好きだった市原さん。「せっかくディズニーランドに連れて行ったのに、ほとんどゴーカートしか乗らなかったの」とお母さんが笑って教えてくれた(3枚目)


瀬川 彰斗(せがわあきと)さんも大学生。元々お小遣いを貯めてハンドルやシートを購入していましたが、コロナ禍の自粛期間に本格的にeモータースポーツにチャレンジし、頭角を現しました。

瀬川:

自分の運転で何かを動かすのが好きで、クルマに限らず思い通りに動かせるものはなんでも好きでした。


ただ、金銭的な課題があることを知りました。本当にレーサーを目指すには、普通の家庭では難しい。なので、両親は私にちゃんと勉強して進学する道も残してくれました。

 

金銭的に難しく、全力投球もできない。そういった現実から、自分がレースの世界に関わることについて、具体的に考えることは次第になくなっていきました。


瀬川 彰斗 (せがわ  あきと)さん。



ご家族で運転好きだった子ども時代を振り返る瀬川さん。ご両親は「普段はのほほんとしているのに、レースのことになると見たこともない本気さを見せるので、私たちも驚いた」と語る。


瀬川:

父に連れられて、SUPER GTなんかも見に行ったりして、レーサーにはなれなくても、やっぱり走りたい、と言う気持ちはありました。

グランツーリスモでは、手が届かないようなクルマを実際に運転しているように走り込めるので、長く楽しんでいました。そんな中、『バーチャルからリアルへの道』というプログラムがあることを知りました。「グランツーリスモを頑張れば、リアルでも走れるかも」と興奮したのを覚えています。その時は高校生で、まだクルマの運転はできなかったので、グランツーリスモの腕を磨きつつ、卒業したらすぐに免許を取得しました。

このプログラムを知るまでは、カートにも手が出せていなかったので、レースに出ること、レーサーになることを、考えてもいませんでした。自分には縁のない世界だと思っていたんです。

でも、このプログラムを通じて、自分でもレースを走れるかもしれない。そう思い心に火が灯りました。

「自分には関係のない世界」。二人を含め、多くの人が壁を感じるモータースポーツの世界。そのハードルを超えることが、このプログラムの原点でした。

 

モータースポーツの魅力を、たくさんの人々に届けるために、クルマ好きにリアルなレースに参加できるチャンスをつくるために、このプログラムは生まれたのです。

超えてしまえば、あるのはただ『走る歓び』だった

マツダはゲーム『グランツーリスモ』のeSPORTS大会を開催。


さらに、大会で好成績を残したプレーヤーたちと共に、実車での体験会を開催しました。



数十人のゲームプレーヤーが参加した実車の体験会。筑波サーキットを駆け抜け、初めてのコース走行を楽しんだ。


ここから、1年間の戦いに身を投じるのはさらに6人に絞られます。しかし、体験したすべての人が「手を伸ばせばすぐそこにあったサーキットの楽しさ」を知ることができました。

このプログラムの狙いをチーフインストラクターを務める、加藤さんは語ります。


加藤  彰彬(かとう  てるあき)さん。レーシングサポートを行うTCRの代表を務める。自身も選手としてロードスターに乗り、ニュルブルクリンクなどを駆けた経歴を持ちながらも、プレーヤーとしてeモータースポーツ文化を牽引してきた。

加藤:

モータースポーツって、知るべきことをちゃんと学べば、決して敷居が高いものじゃないんです。そのハードルさえ超えてしまえば、誰でも楽しめる世界。特に、eスポーツで走る楽しさをすでに知っているからこそ、楽しさはつかみやすいと思っています。そのためにも、安全やルールを知るという、「楽しむための必要な基礎知識」をしっかりと教えたいと思っています。

自分なりの参戦方法でいい。その中で、本気で挑んで、本気で戦う。だから本当に楽しい。それをこのプログラムで感じて欲しいと願っています。


ハードルが高いと思われ、手が届かないものと考えられていたモータースポーツの世界。ハードルを共に超え、本気で挑み、楽しさを知る。

体験会を経て、最終的に6人に選抜されました。

大学生、自動車関連業界勤務、小売業など、年齢も生活もバラバラな6人が、これから1年間の戦いに身を投じ、その感動を体感することとなります。

 

マツダを知る、クルマを知る。スタートラインに立つために

この日、6人がやってきたのは、広島県にあるマツダ本社。



まず、マツダミュージアムでマツダの歴史を学び、その後クルマがどのように動いているかのレクチャーを細かく受けました。一見レースには直接関係なさそうなこの2つプログラムが、6人がレーサーの道へと歩む上での心構えになるとMAZDA SPIRIT RACINGの後藤さんは語ります。


後藤 憲吾(写真左)ブランド体験ビジネス企画部モータースポーツ体験グループ

後藤:

レーサーというのは、ただ走る人というわけではありません。興行としてレースが行われる以上、スポンサーやメーカーの看板を背負って、観客の見ている前を走ることになります。走りもそうですが、その人間性もみんなが見ています。

チャレンジプログラム生も、マツダのレーサーとして迎え入れたということは、私たちの“お客様”ではありません。外に出れば「マツダのレーサー」として見られることになる。つまり私たちの一員です。

マツダには100年以上の歴史があります。その歴史の先に自分たちがいる。そして先人たちの紡いできたものを、自分たちが体現していく。そのことを知ってもらうために、今回マツダの歴史を伝えることにしたんです。



加藤:

クルマがどういう挙動をするのか、なんとなく感覚ではつかめていても、その挙動をする理由まではわからない場合がほとんどです。

クルマの構造やメカニクス、挙動の原因などまで学ぶことができれば、それを活かした運転を考えることや、万一の状況を回避するきっかけにもなります。

 

レースの世界。それは、たった一人で走るのではありません。

選手だけではなく、メカニックやクルマを用意する人、お金を出してくれる人、全てがあって、初めてモータースポーツです。

レーサーとしての楽しさを知るにあたって、この点を無視することはできません。

世に見られるということ、技術が噛み合ってクルマが動いていること、全てがレースの前の大前提の部分です。

6人の中で、少しずつこのプログラムが意図する「レーサー」としての芽が育ち始めていました。


初戦へ、本気がぶつかる壁、歓び

5ヶ月に及ぶ、トレーニングや走行練習の末、迎えた彼らの初戦。筑波サーキットで行われた、マツダファン・エンデュランス(マツ耐)の茨城ラウンドです。コース上で他のレーサーと競い合う、初めての体験です。




少し緊張した面持ちでやってきた6人。レースに向けた成長と課題と、加藤さんはこう分析します。


加藤:

全員、真面目だし飲み込みもいいですね。一方で、まだ“お客さん”のつもりでいるところがあって、自分から情報を積極的に共有してくれようとはしません。

彼らが参加する耐久レースは、チームの連携が、速さはもちろん、安全や命にも関わります。自分から声をかけ、積極的にチームを動かせるようになれば、もっと良いと思うのですが。

 

課題を抱えながらも迎えた初戦。しかし、ここで思わぬアクシデントが彼らを襲います。



緊張から、スタート直後に選手の操作ミスによる停車。他の車両が走り去る中、チームのクルマだけが突如動かなくなってしまったのです。レースの世界では、決して珍しいことではないと加藤さんは語ります。


加藤:

毎日のようにやっている当たり前の操作が、急にふとわからなくなってしまう。それだけ極限状態にレーサーはいるということなんです。これもまた、良い経験になったかと思います。

思わぬ形で、スタートのやり直しに。チームのクルマは、最後尾からのスタートとなり、初戦は波乱の幕開けとなりました。

 

しかし、アクシデントも含めたこの体験が、彼らの心境に変化を与えていました。




瀬川:

今回のレースを通じて、チームが一体となって走る、という今までにない楽しさを味わうことができました。同時に、それぞれが主体的に動いて情報を共有する重要性を、改めて痛感しました。もともと話せば仲のいいメンバーではあったんですが、楽しいだけではない、指摘や改善もきちんと行えるチームに、雰囲気が少し変わってきたように思います。




レースが終わり、ロードスターに貼られたマツダの文字を拭く姿に、ただ走るだけではない、マツダも仲間も、関わる全員と共に走る、と言う気持ちが表れ始めていました。

波乱を味わいながらも、確実に、そして着実に、彼らはこの世界の楽しさを感じ始めていました。

 

終始レースの間、緊張した面持ちだった能條 裕貴(のうじょう みちたか)さん。幼少の頃から、カートでレーサーの道を夢見たが、

資金面で断念した苦い思い出があります。

 

走り終え、仲間とカメラに、興奮混じりに語りました。


能條裕貴(のうじょうみちたか)さん。常に真剣で必死の表情だった能條さんの顔に、走り終えた時、本当の笑顔が宿った。

能條:

最高でした。昨日も、今日も、「本当に走り切れるのか」という不安な気持ちや緊張感でいっぱいだったんですが、「よーい、どん!」で走り出した途端、今まで味わったことのない高揚感が、全身を駆け巡りました。サーキットで競い合うことって、こんなに気持ちいいんですね。

まだ見ぬ世界に、緊張と焦りがあったメンバーは、ヘルメットを外した時、興奮と笑顔の表情で、サーキットの感触を噛み締めていました。

着実に、しかし一歩ずつ、彼らは「レーサー」になっていたのです。

 

こうして、彼らの初戦は幕を閉じました。しかし、これはまだ第一ラウンド。彼らの戦いはまだまだ続きます。

一人一人がレーサーとして、どこまで成長できるのか。バラバラなスタートを切った6人が、一つのチームとして羽ばたけるのか。その歩みは、まだ途上です。

彼らのこれからの歩みが楽しみでならない、そう感じさせてくれる戦いが、始まっていました。



編集後記

 

レースに参加するなら、もちろんみんなプロレーサーを目指してやっているんだろう。そんな考えで取材に臨んでいましたが、取材を重ねる中で、それこそが自分の中にある「モータースポーツへの壁」の意識に他ならないと感じることとなりました。

野球をやっているのは、プロ野球選手になりたい人だけなのか。Jリーガーを目指していない人は、ボールを蹴ってはいけないのか。

決してそんなことはありません。誰しもが、自分の世界を「本気」で楽しんでいる。だからスポーツは面白い。

モータースポーツも、そんなスポーツの一つに他ならないのでは。MAZDA SPIRIT RACINGが問いかけるのは、そんな当たり前への挑戦です。

もちろん、世界一を目指すのも一つの形。しかし、どんな人にでもモータースポーツを開かれたものにしたい。そのチャレンジが、今、始まっています。

*1:  「グランツーリスモ」および「GRANTURISMO」は、株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメントの登録商標および商標です。PS5®/PS4®用ソフトウェア『グランツーリスモ7』の発売元は株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメントです。


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