「誰かのために、チームのために」――多くの方が、一度はそんな思いをもって一つのことに没頭した経験があるのではないでしょうか。そうした経験の中で人は、特別な達成感を得て、輝きを放つものです。
マツダは2021年から、社員を中心としたチームでスーパー耐久シリーズに参戦し、今年で5年目を迎えました。疾走するレーシングカーやドライバーの活躍の陰には、チームを力強く支える人たちがいます。今回は、そんなメンバーの中から2人にスポットライトを当て、彼らの取り組みや思いをご紹介します。
「誰かのために、チームのために」――多くの方が、一度はそんな思いをもって一つのことに没頭した経験があるのではないでしょうか。そうした経験の中で人は、特別な達成感を得て、輝きを放つものです。
マツダは2021年から、社員を中心としたチームでスーパー耐久シリーズに参戦し、今年で5年目を迎えました。疾走するレーシングカーやドライバーの活躍の陰には、チームを力強く支える人たちがいます。今回は、そんなメンバーの中から2人にスポットライトを当て、彼らの取り組みや思いをご紹介します。
「自分は頑固者なんです」チームマネージャーを務める松浦は、そう語ります。
「子どもの頃はお菓子作りをして友達に食べてもらったり、将来は宮大工になることに憧れたりしていました。元々、モノづくりが好きだったんです。その後、運転免許を取ってバイクやクルマをいじるようになり、スポーツカーが造りたくて、自動車エンジニアの道へ進むことになりました。エンジニアとしてキャリアをスタートしましたが、情熱的なモノづくりをしているマツダ社員の仕事を、一人でも多くの人に知っていただきたくて、ファンイベントの運営にも携わるようになりました。今ではマツダがメーカーとして参戦するレースのチームマネージャーを務めています。」
チームマネージャーの役割は多岐にわたります。レースの参加受付や申請、運営団体や主催者との調整からチームメンバーの食事、宿泊、ユニーフォームの手配、備品管/予算の管理など。
チームマネージャーがいることでレースの土台が築かれ、現場はスムーズに運営することが出来ます。まさに縁の下の力持ちです。
チームマネージャーという仕事は、決して目立つ仕事ばかりではありません。
「サーキットに着く前には、ほとんど僕の仕事は終わっていなければなりません。レース当日、レーシングカーが走り出すと僕の出番はほとんどないんです。当日はレース前に行われるピットウォークで、お客様にお声がけすることくらいでしょうか(笑)」
レース中にタイヤ交換や給油を行なう、普段はチーム関係者しか入れないピットエリアに、観戦に来ている人が入って、間近でレースカーやドライバーを見ることできるイベントです。
ただ、大事なことは「どれだけ人を喜ばせられたか」と松浦は語ります。
「仕事のプロセスや努力を認めてもらうことではなく、仕事の先で実際に笑顔になってくれる人がいることに、そこに何よりの達成感を感じています。」
その原点には、子どものころに熱中したお菓子作りや、憧れた宮大工の姿がありました。
丁寧に作ったお菓子に、喜んでくれる友達や家族がいた。
居城としての居心地の良さを創る宮大工の姿は、松浦の目には輝いて見えた。
確かな技術と仕事の積み重ねの先に、喜んでくれる人たちがいる。
「みんなが笑顔で楽しそうにしていてくれたらそれで満足なんです」と語る松浦の中では、
今も昔も、大切にしていることは変わりません。
「目立たなくとも、その仕事の先には必ず喜んでくれる人がいる。だからこそ、今日も確かな仕事を積み重ねていくんです。」照れくさそうにも笑顔で、松浦はそう語ってくれました。
例えばサッカーでは、使用するフィールドが濡れているか乾いているか、芝か土かによって、着用するスパイクを変えることも少なくありません。また、選手交代のタイミングも大事な戦略だと言われています。
同様にレースでも、当日の路面状況や天候、過去の走行データやドライバーのフィーリングを基に、車両のセッティングを変える必要があります。スーパー耐久シリーズは長時間走行する耐久レースのため、レース走行中にタイヤの状態も大きく変化します。燃料の残量計算、ドライバー交代、タイヤ交換など、作戦を考えることがとても重要なのです。
最終的なジャッジをするのはチーム監督ですが、そういった車両のセッティングやレースの戦略を考えるのが、柏が担うトラックエンジニアの役目です。海外ではストラテジストとも呼ばれています。
「小さい頃からクルマが好きで、自動車会社に就職するため大学では機械工学を学びました。趣味ではジムカーナ競技をするなど、常にクルマが近くにある生活を送ってきました。マツダに入社後、開発や量産の部門で仕事をしていた中で、モータースポーツ活動を推進する部署の社内公募があり、またとないチャンスだと思って飛びつくように応募しました。異動して初めのうちは、レースカーの開発を担当していましたが、今シーズンからはトラックエンジニアにも指名されました。チームの大事な部分を担う役割なのでプレッシャーも大きいですが、プロのレースエンジニアの方にアドバイスをいただきながら、なんとか取り組んでいます。」
2025年10月25〜26日に岡山国際サーキットで開催されたスーパー耐久シリーズ第6戦。車両の仕様によって11のクラスがあり、2つのグループに分かれてレースが行われました。
岡山国際サーキットは、カーブが次々と現れ、直線よりもコーナーの割合が多いと言われるテクニカルなコースです。コーナリングを得意とする12号車ロードスターには、絶好のコース。さらに新たなエアロパーツも取り付け、走行スピードを上げており、過去最高の仕上がりで、グループの総合優勝を狙えるポジションにありました。
主な目的は技術開発・実証実験として参戦しているマツダチームですが、グループ総合優勝の可能性にメンバーの気持ちは高まり、今シーズン最高の一体感が生まれていました。車両のセッティングやレース戦略に対し、チームメンバーからかけられる期待も高まっていました
「当たり前に走っては掴めない勝利」
「長時間のレースのため、高ぶるときこそ安全に走り切ることは何より重要」
「このレースにかけるチームメンバーの思いも大切にしたい」
「自分がたてた走行プランで失敗すると自分の責任」
トラックエンジニアを務める柏の頭の中では、様々な思いが巡りました。
ドライバー、エンジニア、チームメンバーと議論を重ね、車両のセッティングが完了し、チームの思いが詰まった作戦も決まりました。
しかし、いざレースというとき、強い雨がサーキットに降り注ぎ、難しいレース展開に。
雨を想定した作戦でレースに臨んだものの、チームの目標にはあと一歩及びませんでした。
後に振り返って柏はこう語ります。
「目標達成とはなりませんでしたが、ドライバーたちも悪条件の中、力を振り絞って走ってくれましたし、チームで挑戦するモータースポーツの醍醐味を味わうことができました。何より、このレースで更にチームの結束が一段と強まり、より強いチームに成長したと感じています。私自身は生来負けず嫌いなので、悔しさは残りますが(笑)」
一歩間違えれば大きな事故にもつながるレースにおいて、挑戦のため熱い想いが集まるチームとしての決断もしないといけない。
穏やかに見える彼の瞳の奥には、勝ちにこだわる熱い闘志と、チームを守る冷静さが宿っています。
いかがでしたでしょうか。
今回はスーパー耐久シリーズに挑むマツダチームの社員メンバーから、2人にスポットライトを当ててご紹介しました。
チームを想い、挑戦するメンバー。それらが結集しレースに「共に挑む」。
力強く走る車両のみならず、それを支えるメンバーにも注目してレースをお楽しみください。