ロードスターという車を知っていますか?1989年、マツダから発売された小型オープンカーで、累計生産台数は120万台超。世界中に多くのファンを持つ、オープンカーの金字塔とも言える一台です。そんなロードスターですが、実はレーシングカーとしても活躍しています。その舞台が「スーパー耐久シリーズ」。市販車をベースにした車両でタイムを競う日本最大級の参加型耐久レースで、プロからアマチュアまで、さまざまなドライバーやチームが参戦しています。
2025.11.20
共に挑む、その意味と耐久レース。
ロードスターに魅せられた人たち
ロードスターがレース車に。「スーパー耐久シリーズ」とは?
市販車ベースであることの他にも、細かな「クラス分け」が設けられている点も特徴。排気量や車両仕様によって10クラスに細分化され、車両の改造や使用パーツにも厳しい制限があります。これはレースの公平さを損なわないためのルール。ほぼ同じ条件の車両で競うため、マシンによるタイム差はわずか。だからこそ、ドライバーの技量やチームの戦略が勝敗を左右します。
ロードスターがしのぎを削るクラスは二つ。排気量1,500~2,500ccの「ST-4」クラスと、2025年シリーズから新設された1,500cc未満の後輪駆動車の「ST-5R」クラスです。特に、「ST-5R」クラスは、エントリーしている全車両がロードスター!「戦略×耐久力×速さ」で日本一のロードスターを決めるレースと言っても過言ではありません。だからこそ、この車を愛するドライバーとチームがこのクラスに集結。「レーシングカーとしてのロードスター」の走りを見るには絶好のレースです。
2025年のチャンピオンが決まる第6戦・岡山
「スーパー耐久シリーズ」は、一年間かけて複数回のレースを行い、合計獲得ポイントによって年間チャンピオンを決定します。2025年シーズンは、3月22・23日の「第1戦 もてぎスーパー耐久 4 Hours Race」から始まり、11月15・16日の「第7戦 S耐FINAL大感謝祭」の全7戦。「ST-5R」クラスは第7戦がないため、10月25・26日の「第6戦 スーパー耐久レースin岡山」が、年間チャンピオンを決める最終戦となります。
5戦が終わった時点の優勝争いは、愛媛県のベテランチーム「村上モータース」と、スーパー耐久初参戦の新進気鋭「KOSHIDO RACING」。これまでのレースでは、村上モータースが全戦ポールポジション(最前列からのスタート)を獲得するなど絶好調。1位3回、5位2回と圧倒的な強さを見せつけます。一方の「KOSHIDO RACING」は、スーパー耐久初参戦ながら確かな実力を発揮し、1位1回、2位2回など着実にポイントを重ねました。
最終戦前のポイントは、村上モータースが114ポイント、KOSHIDO RACINGが87ポイント。年間チャンピオン獲得の権利を持つのはこの2チームのみで、KOSHIDO RACINGがトップで走り切れば逆転優勝のチャンスが残された状態。晴れの国・岡山で雌雄を決します。
古参と新鋭。対照的な両チームが語るレースへの想い
村上モータースを運営するのは、全国のロードスターファンが愛車を持ち込む愛媛県のロードスター専門店。スーパー耐久シリーズには2011年に初参戦し、2017年には年間チャンピオンを獲得。確かな実力とこれまでに培った知識や経験を武器に、2025年の優勝を狙います。
オーナー兼ドライバーの村上博幸さんは「ロードスターが本当に好きで、この車に乗ったら速くなれると信じてやってきました。僕の人生を変えてくれた宝物だし、仕事もレースもロードスターと生きていこうと思っています」と語るほどロードスター愛があふれる人物。この車の素晴らしさを広めるために、スーパー耐久シリーズへチャレンジしています。
「僕たちはプライベーターながらも、蓄積してきたデータと速く走らせるノウハウを持っています。そのうえで、レースで大切にしているのが準備。チームを挙げて入念に準備し、予選で最大の力を発揮できるようにしています」。これまでの全5戦でポールポジションを獲得しているのがその証拠。ベテランチームの優勝に期待が集まります。
スーパー耐久シリーズ初参戦のKOSHIDO RACINGは、北海道で不動産やホテル事業などを営む企業が母体。オーナー兼ドライバーの佐藤元春さんは「レースは有言実行を証明する絶好の場所。仕事と同じく目標を宣言し、達成していく姿をスタッフへ見せるのが大事だと考えています。生き様を見せる意味でも大切にしている活動です」と、レースについての想いを語ります。
スーパー耐久シリーズを選んだ理由は?「ドライバー、メカニック、エンジニア、監督、マネージャーなど、チームの総合力が試されるから。参入するにあたり、ライトウェイトのコーナリングマシンを選ぶしかないなと思い、ロードスターを選びました」。レースによって組織力を磨き、勝つためにロードスターを選ぶ。レースを楽しみながらも、チームで勝利することへのこだわりを感じさせます。
「良いドライバーが揃ってチーム体制が整ったので、初年度から全レースで表彰台を獲得していこうと。最終戦の時点でランキング2位は上出来ですね。レースはチェッカーを受けるまで何が起こるか分からない。最後まで諦めず全力で走りたいと思います」と最終戦への意気込みを語り、初出場&初優勝という快挙を目指して逆転を狙います。
遂に最終戦スタート!栄光を手にしたチームは!?
迎えた最終戦。予選は、断続的に雨が降り続く中でスタートしました。これまでのレースと同様、村上モータースが安定した走りを見せ、翌日の決勝レースでのポールポジションを獲得。KOSHIDO RACINGは6位の位置からのスタートに決まりました。
決勝レースも小雨が降り、路面はあいにくのウェットコンディション。スタート地点には、ポールポジションに村上モータース、6番手にKOSHIDO RACINGが陣取ります。そしていよいよ、3時間の決勝レースがスタート!エンジン音を響かせながら、村上モータースが抜群のスタートダッシュ!一気にリードを広げ、後続を突き放します。KOSHIDO RACINGは、序盤にコースアウトするトラブルがありながらも、諦めずにレースを続行。後半も村上モータースが序盤で手に入れた先頭を守り続け、そのままトップでチェッカーを受けました!その結果、年間チャンピオンの栄冠は村上モータースの手に。
思うように順位を上げられなかったKOSHIDO RACINGですが、レース終了後にサプライズが。他チームがペナルティを受けたことによって、2位に浮上することに! KOSHIDO RACINGも、初出場ながら年間2位と大健闘でした。
「ST-5R」クラスの初代王者となった、村上モータースの村上博幸さんは、「今年は開幕から毎回のポールポジション獲得で、速さを見せることができました。シーズン途中には不運なアクシデントに見舞われることもあり、最終戦も最後までドキドキしていましたが、全員の力でシリーズチャンピオンが獲れました」と、チーム一丸となって掴んだ勝利を喜びます。
KOSHIDO RACINGの佐藤元春さんは、「コースアウトしつつも、最後まで諦めずに攻め続けたおかげで、繰り上げ2位で表彰台に上がれました。これもまた耐久レースの醍醐味のひとつですね。来年もしっかり準備してこのシリーズに臨みたいと思います」と、初参戦への手応えと次年度への想いを語りました。
レースという「日常の続き」と「共に挑む」ことの価値
スーパー耐久シリーズに勝つために必要なこと。それは、速い車だけではありません。ベテランと新鋭、個性の異なる両チームに共通していたのは「チームで勝つ」という想い。チームスポーツである以上、勝利のためには仲間の存在が欠かせません。そして、この想いは「MAZDA SPIRIT RACING」のスローガンである、「共に挑む」そのものです。
最後に2つの言葉を紹介します。一つ目は「スーパー耐久」が掲げる理念からの一文。「モータースポーツを通して、『人生に挑戦し続ける』ことで獲得できる、人それぞれの『何か』を生み出して欲しいと願う」。
二つ目が、村上モータース・村上博幸さんの言葉。「たくさんの方に支えられているので、ロードスターのスーパー耐久参戦を止める選択肢はありません。けれど、ボコボコに負けてもチャレンジし続けることが人生で一番大事なことなので、新しいカテゴリーにも挑戦したいと思っています。それが、ロードスターでレース活動している人たちの道標になれば」。
ロードスターに魅了された人たちは、その走りに夢中になり、いつしかレースの世界へ。そこで仲間との挑戦を重ねながら、勝ち負けではない「何か」を得たはずです。挑戦への入口は、あなたの日常にあるロードスターという車。その一台は、「あなたと共に挑む愛車」となって、人生を変えてしまうかも知れません。