MAZDA FAN FESTA 2025 at FUJI SPEEDWAY。
富士スピードウェイで毎年開催される、マツダファンへの感謝を伝えるイベントです。
西本尚子(にしもと・なおこ)さん。55歳の時に買ったRX-7を、25年間大切に乗ってきました。80歳の誕生日に、免許返納と共にRX-7を手放すことを決意。引き取り手を探していたところに、手を挙げたのがマツダでした。
RX-7は西本さんの手を離れ、マツダの広報車として、クルマの魅力を伝えるという新しい役割を担うこととなりました。
西本さんのように、長年ひとつのクルマを愛し、大切に乗り続けてくれる人たちがいます。
そういったお客様に対して、マツダは何ができるだろうか。
その答えのひとつとして、マツダでは、生産終了した旧車のレストア*や入手困難な補修部品の供給を行っています。
過去から未来へと想いをつなごうと模索する人々を、取材しました。
*新車に近い状態を目指した修復・再生作業
2017年レストアサービスを開始した頃のチームメンバー。センター後方に立つのが現在もチームメンバーとして「クラシックマツダ」の活動をけん引する伏見。
MAZDA FAN FESTA 2025 at FUJI SPEEDWAY。
富士スピードウェイで毎年開催される、マツダファンへの感謝を伝えるイベントです。
その開会式に颯爽と登場する、銀色に輝くクルマがありました。
かつて、西本さんが乗っていたRX-7です。
広報車としてマツダのイベントなどでクルマの魅力を伝える仕事をしているRX-7。今回のイベントでは、社長の毛籠が乗ってサーキットに登場。787Bと並び、マツダの顔として多くの人々の視線を集めた。
その様子を、笑顔で見つめる人がいました。RX-7の前オーナー、西本尚子さんです。
オープニングセレモニーで大役を果たす、RX-7を見つめる西本さん。「久しぶりに友達と会ったみたい」と微笑んだ。
西本さんがRX-7の姿を見るのは、マツダへ譲渡してから実に10か月ぶりのこと。
西本さん:
私、エンジンの音が好きなんです。かけてもいいですか。
鍵が渡され、数カ月ぶりにシートに座る西本さん。エンジンをかけた瞬間「あぁ」と声が漏れました。
西本さん:
この音が好きなんですよ! たまらなく好き。
座った瞬間に感じました。私が座るのを待っていたみたい。
「もう一度だけ」と、はにかみながら、結局3回エンジンの再始動を楽しんだ。
その後、開会式でRX-7を運転した社長の毛籠が、感謝を伝えるために西本さんの元へやってきました。
毛籠:
譲渡をしていただき、本当にありがとうございました。
開会式では私が運転させていただいたのですが、ゆっくり走るつもりだったのに思った以上にエンジンの伸びがよく、後ろのクルマを置き去りにしてしまい少し焦りました(笑)。
実は社長の毛籠は、RX-7 FD販売当時の担当者(プログラムのマーケティング主査)。
毛籠にとって我が子にも等しいRX-7を、長年可愛がってくれた西本さんへの感謝は、より一層気持ちがこもっていました。
社長の毛籠と西本さん。一緒にクルマに座り、その美しさや楽しさを語り合った。
西本さん:
多くの方が喜んでくださって、私も嬉しいです。ナンバーが7なのが、とっても驚きました。クルマを大事にしてくださっていることは、セブンを見たらよくわかります。これからも、ぜひ大事にしてくださるととても嬉しいです。
クルマを手にした1999年、西本さんが希望したわけではないが、当時の販売店のスタッフが粋な計らいで7にしてくれた、思い入れのあるナンバー。
新しくなった横浜ナンバーも高倍率の抽選の結果、運よく7を獲得できた。
7のナンバープレートのサプライズに、「びっくり。クルマの7とナンバープレートの7がそろって、やっぱりいいね」と、目を輝かせる西本さん。
ひとつのクルマを10年、20年と愛し、人生を共にしてくれる人がいます。
こうした人々の想いに応えたい。そして、新しいクルマだけでなく、古いクルマも大切にする文化を育てたい。
そんな想いから、マツダでは、お気に入りのクルマに乗り続けていただくことを実現するための取り組みを行っています。
そのひとつが、「クラシックマツダ」と呼ばれるサービスです。旧車のレストアや入手困難となってしまった補修部品などを復刻し、提供を行なっています。
マツダファンフェスタの会場で思わず目を引く、赤いNAロードスターが展示されたクラシックマツダのブース。旧車好きのファンだけでなく、家族連れでもにぎわっていた。
こうしたクルマを残していく取り組みは、日本の自動車業界の中ではかなり早い段階でマツダが取り組み始めたものです。
この活動の原点は、2014年頃にさかのぼります。
生産終了から年月が経ち、補修部品の入手に困るロードスターオーナーの声が聞かれるようになりました。そこで、修理を担うショップ、サプライヤーへのヒアリングを重ね、「好きなクルマに乗り続けたい」という声に真正面から向き合う準備が始まりました。
2017年 マツダR&Dセンター横浜でのレストアサービス説明会の様子
そうした下地づくりを経て、2017年に初代ロードスターのレストアサービスを開始。やがて活動はレストアだけでなく、補修部品の復刻や供給体制づくりへと広がり、現在の「クラシックマツダ」というかたちへと進化していきました。
マツダのレストアは、メーカー品質での修復にこだわる点が特長です。第三者機関の認証を受けた工場でひとつずつ丁寧に再生されています。完成したクルマには認証が与えられます。単なる修理ではなく、「未来へ受け継ぐための再生」として送り出されているのです。
ドイツに本社を構える「テュフ ラインランド ジャパン株式会社」のクラシックカーガレージ認証査証。第三者機関によってレストアの品質が保証されている。
クラシックマツダ担当の伏見は語ります。
カスタマーサービス本部アフターセールスビジネス推進部 伏見 亮(ふしみ・あきら)。クラシックマツダの運営体制はわずか3人という小さなチームだが、旧車オーナーの想いに応えるべく、社内外の協力パートナーの輪を広げる活動に取り組んでいる。
伏見(マツダ):
クルマを長年愛してくださる方がいる。そういった方のために何か恩返しができるんじゃないか。そういった思いで始まったのが、このプロジェクトです。
オーナーにとって、クルマの価値って新しいか古いかではないと思っています。人生のどこかのタイミングで、クルマに乗り、一緒の時を過ごす。クルマって単体では考えられず、自分の人生そのものだと思っています。
だからこそ、長く未来に残せる方法を模索しています。
その想いに呼応するように、北海道から沖縄まで、全国各地のオーナーから相談が寄せられ、サービス開始からこれまでの約8年間で17台のクルマがレストアを完了しています。
1台にかかる作業期間は約4〜5か月。すべてが手作業に近い工程のため、年間に対応できるのは数台程度です。なかには順番待ちが数年におよぶケースもあります。それでも「何十年と一緒に過ごしてきた愛車だから、もう一度きちんと直して乗り続けたい」と、待つことを選ぶオーナーも少なくありません。
クルマを“買い替える”のではなく、“人生の続きを走る”。そんな価値観が、少しずつ広がり始めています。
実際にレストアサービスを利用した吉岡さんは語ります。
吉岡 順治(よしおか・じゅんじ)さん。レストアサービスを利用し新しく生まれ変わったNAロードスターとの日々を楽しんでいる。
吉岡さん:
若い時に乗っていたのが、NAロードスターでした。仕事で嫌なことがあったとき、夜通し走ったり、ふと思い立ったときに海へ行ったり、思い出は尽きないですね。
仕事が落ち着いたとき、もう一度乗りたいと思うようになり、レストアサービスを利用しました。実際に作業してくださる職人さんと話もして、修復中の作業も見て、本当に手がかかっていることを感じました。乗っていると、昔のことを思い出します。
レストア作業を見学する吉岡さん。この日は遠路はるばる自走で群馬から広島のマツダ本社へ。
こういったレストアサービスをしてくれることは、本当にすごいことだと思っています。だって、企業としては私らが古いクルマを手放して、買い換えてくれた方が儲かるじゃないですか。それでも、クルマを文化として残そうとする姿勢、儲けよりも文化や伝統を大切にしようとする姿勢が、本当に素晴らしいと思います。
皆さんにこの取り組みを知ってもらって、レストアサービスが長く続くことを祈っています。
こうしたレストアや、旧車のパーツの復刻によって喜んでくれるお客さまがいる一方で、その道のりは簡単なものではなかったと、伏見は語ります。
伏見(マツダ):
レストアは、専門のショップさんが行っている場合が多いですから、ショップさんに勉強させてもらいました。逆に、補修パーツを作れるのは我々の方ですから、ショップさんや販売会社さんに、足りていないパーツ、特に必要になるパーツを聞いて、復刻パーツなどを生産していきました。
これまでマツダは、純正として約170アイテムの部品を復刻してきました。しかし、それだけでは供給を維持し続けることが難しくなっています。
古い部品は、そもそも生産ラインや人手を確保・維持し続けること自体が容易ではありません。さらに近年は電動化や環境規制への対応が求められるようになり、サプライヤーも従来のエンジン車向けの部品を製造し続けることが困難になっています。
「純正だけ」に頼っていては、クルマを未来へ残せない。
そこでクラシックマツダでは、近年、考え方を広げています。品質を確認した社外部品や、新たなサプライヤーの力も積極的に活用し、補修パーツを絶え間なく供給できる体制を整えています。メーカー、ショップ、サプライヤー、そしてオーナーが輪になって支え合うことで、旧車を維持できる環境そのものをつくろうとしているのです。
部品を「純正かどうか」で分けるのではなく、「走り続けられるかどうか」で考える。
それが、いまクラシックマツダが目指している新しいスタンダードです。
ショップとともに環境づくりをしようとする姿勢に、気持ちが動いたと株式会社郷田鈑金の駒場さんは語ります。
株式会社郷田鈑金 代表取締役社長 駒場 豊(こまば・ゆたか)さん。マツダに対してレストアのアドバイスや、不足しているパーツの提供、さらにはマツダに代わり、修理に使えるパーツの開発、販売を行っている。
駒場さん:
最初はね、「メーカーさんがレストアできんのか?」って思ってたんですよ。正直ね。でも、実際にレストアの様子を見に行ったら、やっぱりさすが、品質や仕上がりがしっかり管理されているなって感心しました。
そこから協力するようになって、枯渇してきた部品の情報とか、逆に現場レベルで他の車種から流用可能なパーツを伝えて、色々と協力するようになっています。
社外とも協力することで、クルマを残す取り組みを行う伏見。しかし、奇麗ごとだけでは進めない事情もあると語ります。
伏見(マツダ):
マツダだけでレストアやパーツの復刻ができるわけではありません。協力先でパーツを作る会社さんもいるし、販売会社さんも、ショップさんも関わってくださっている。そのうちの誰かが、損をするようなプロジェクトではいけない。というより、それじゃ長続きしないと思うんですよ。
愛だけで続けられるものじゃない。だからこそ、長く続けられる形を、ずっと模索しています。
駒場さん:
なくなったパーツは増えていますよ。マツダさんに純正部品を作ってほしいけど、もちろんそうもいかない。
じゃあ仕方ないね。古いクルマは捨てようねってなるのは嫌じゃないですか。
いろんな方法を使ってクルマを助けていきたい。これを見てください。
郷田鈑金さんの製作した、NAロードスターのパーツ。「手が足りない。全国の板金屋さんも食わず嫌いせず、ぜひ古いクルマの復刻を一緒にやろう」と、駒場さんは全国に呼びかける。
駒場さん:
これは、NAロードスターのパーツ、うちで作ったものです。実はこのパーツは、まだマツダさんが純正部品を販売しているんですよね。でも、生産終了して「困った」となった時には、もう手遅れなんですよ。純正パーツがあるうちから、先手先手でうちでもパーツを作っておく。純正じゃなくても、これならクルマを救えると思うんです。
うちは小さい会社ですが、マツダさんと同じ目線で、一緒になってクルマを残していこうって仕事ができることが嬉しい。マツダさんと検証しながら、現実的に残していく方法を考えられる。これは、財産ですよ。
伏見(マツダ):
新車メーカーでは、クルマをたたいて直すってことはできません。なんでも直せる世界があるってことは、本当に心強いです。まだまだわずかですが、私たちの新たな取り組みにより、社外部品の復刻パーツも出てきています。
僕らマツダだけでは難しいことでも、社外の方の協力と、「純正パーツでなくても残す道を一緒に考えよう」としてくれるお客さまのおかげで、苦しみながらもなんとか方法を模索しています。
西本さんの話にも通じますが、古いクルマを美術品のように飾っておくのではなく、日常で使うことで、新しいクルマも古いクルマも人生の中で一緒に過ごせる未来が来ればいいなと思います。
旧車が50年後の未来でも新しいクルマに混じって走っていて、「あれ、お父さんが乗ってたんだよ」と子どもに語ることができる。
そんな未来を作っていきたいと思っています。
納車式では、オーナーと愛車との思い出の写真や、レストアの記録を収めたフォトブックをプレゼントしている。これまでオーナーが愛車と紡いできた物語を大切に、生まれ変わったクルマとのこれからを幸せに過ごしてもらいたい、という想いが込められている。
2025年に配信した西本さんとRX-7のドキュメンタリー動画には、国内外から多数のコメントをいただきました。その中で、西本さんと愛車への感動の言葉と共に語られていたのは、「自分と愛車の物語」でした。
クルマを残すことは、物語を残すこと。
そしてその物語こそが「マツダ」を形作るものであると、私たちは考えています。
クラシックマツダの取り組みを通して、クルマを未来へ残そうとする人たちが見据えるのはいつも、その先にある人とクルマの物語である。そう感じられる取材でした。