未来に胸を張れる、エンジン車を ―CO₂を排出しないエンジン車の公開実証実験に挑む―

「いつかエンジン車は姿を消してしまうのだろうか。」

環境への意識が高まり、世界ではEV への取り組みが進みつつある中、心のどこかでそう思っている自動車ファンも少なくありません。

 

「本当にそうだろうか。エンジン車には強い需要がある。エンジン車で胸を張れる未来が、必ずあるはずだ」

私たちは、そう考えています。

 

マツダは、Japan Mobility Show 2025で「走るほどにCO₂を減らす」モビリティの未来を示しました。その実現のカギとなるCO₂回収装置「Mazda Mobile Carbon Capture」を公開。2025年11月のスーパー耐久シリーズ最終戦*では、この技術を搭載した55号車で参戦し、世界初となるレースでのCO₂回収の公開実証実験を開始しました*


この発表の前から進められてきた「CO₂を排出しない、むしろ減らすエンジン車」のプロジェクト。そこに集まったのは、エンジン開発をしてきた技術者たちでした。エンジン車の生き残りを信じ、自ら名乗りを挙げて結集しました。彼らを突き動かす原動力とは。今回、技術者たちの意地と信念の戦いを、取材しました。

 


エンジン車が持つカーボン“ネガティブ”の可能性

最近よく、「カーボンニュートラル」という言葉を耳にします。CO₂の吸収・排出の差プラスマイナスゼロに近づけていく取り組みです。しかし、マツダが掲げているのはさらにその先の「カーボンネガティブ」です。CO₂の排出よりも回収・吸収が上回る、つまり「走れば走るほどCO₂を削減」することを目指しているのです。

 

 

走る時にCO₂を排出する点は、ガソリンやディーゼルなどの化石燃料でも生物由来のバイオ燃料*でも変わりません。

しかし、バイオ燃料は、植物が生長する過程でCO₂を吸収し、生成された油を使って作られます。

Ryota Kimishima
Ryota Kimishima

生成時に吸収されたCO₂を、同じ量だけ走る時に排出することになり、一見これ「カーボンニュートラル」に見えます。ところが実際はそうではありません。

植物が出した油を加工するときに、追加のエネルギーが必要になり、その分COが排出されます。それでも、化石燃料に比べると最大90%のCO₂削減につながります。

しかし、マツダはさらにもう一歩先を目指しました。

たとえわずかでも地球に負担をかけているという意識があれば、運転を心から楽しめないのではないか。むしろ「地球にプラスのことをしている」、そう感じながら走ることができれば、環境への不安を和らげつつ、より前向きな気持ちで運転できるのではないか。

 

そこで開発したのが「CO₂回収装置」です。

Ryota Kimishima
Ryota Kimishima

バイオ燃料の生成時に吸収したCO₂を、走行時にそのまま排出するのではなく、「CO₂回収装置」によって回収します。

Ryota Kimishima
Ryota Kimishima

こうすることで、吸収したCO₂が排出されるCO₂を上回ることが期待され、将来的に走れば走るほどCO₂を減らすことにつながるのです。

世界中のお客さまに、マツダらしさを届けるために

しかし、環境に配慮したクルマとして話題に上ることが多いのはEVです。なぜEVではなく、エンジン車でCO₂削減に取り組む必要があるのでしょうか。

そこには、合理性と感情性、二つの側面での理由がありました。

 

CO₂回収技術 研究長の原田は次のように語ります。

Ryota Kimishima
Ryota Kimishima

「未来に胸を張れる商品を提供したい」と語る 原田 雄司(はらだ・ゆうじ)。その実現のために周囲を説得し、当初たった3名でCO₂回収技術の研究チームを立ち上げた。

原田:

ガソリン車で環境問題に取り組む合理的な理由、これはもちろんあります。今はまだEV車を動かす電力は、火力発電など化石燃料に依存している場合が多いです。しかし、これもいずれは再生可能な発電方法に置き換わっていくでしょう。

ただ、全世界でそうかと言われれば、ここには疑問が残ります。インフラの弱い地域や経済的な理由から再生可能エネルギーに切り替えられない国や地域では、効率とパフォーマンスの良いエンジン車の需要はあり続けると考えます。そして、そうした地域でも、メーカーとしては環境問題には取り組まなければなりません。こうした状況において、エンジン車でありながら環境負荷を考えられたクルマを作ることは、ある種メーカーの責務であると考えています。

こうした合理的な理由だけでなく、ユーザーの選択の幅も広げていきたい。そう語るのは、レース運営・CO₂回収技術実証 総括責任者の上杉です。

Ryota Kimishima
Ryota Kimishima

上杉 康範 (うえすぎ・やすのり)。レース運営および実証実験を総括する冷静沈着なリーダーだが、これまで長らくエンジン開発に携わってきた生粋の技術者でもある。

上杉:

私たちはEV車も生産しており、もちろんEVの有用性や魅力は十分に理解しています。しかし、すべてのクルマがEVだけになったら面白くないじゃないですか。

ユーザーの中には、エンジン車ならではの楽しさを大切にしている人も多くいます。そういった方々から、環境問題を理由にエンジン車という選択肢を奪いたくない。未来でも好きなクルマを選択することができ、いろいろなクルマが走っている街にしたい。そういった思いで、このプロジェクトを進めています。

カーボンネガティブ実現に向けた、3つのステップ

マツダはこのCO₂回収装置について、3つのステップを設けています。

Ryota Kimishima
Ryota Kimishima

Step1で掲げた目標である「CO₂吸着」を担うのが、この55号車です。

Ryota Kimishima
Ryota Kimishima

バイオ燃料で走るこの55号車が、先日スーパー耐久シリーズ最終戦*にCO₂回収装置をつけて挑戦、排出ガス中の84 gのCO₂を無事回収し、完走を飾りました。なお、これは炭酸飲料500mlペットボトルの約21本分(目安)に含まれるCO₂の量に該当します。

しかし、これで終わりではありません。むしろ新しい始まりだと、技術者たちは語ります。

Ryota Kimishima
Ryota Kimishima

ファクトリーモータースポーツ推進部  吉田 貴彦(よしだ・たかひこ) 55号車に搭載したCO₂回収装置の技術実証を担当する。これまで生産工程でのCO₂削減に携わっていた経験を活かし、レース車両でのCO₂回収に挑む。

吉田:

CO₂の吸着を実現したStep1の段階までだけでも、実際にクルマに搭載し、レースで走らせるためには、乗り越えるべき課題が想像以上にありました。一から作ったシステムということもあり、サーキットで走らせて初めて課題が出てきたり、とギリギリまで苦労しました。しかし、技術者、デザイナー、さまざまなプロフェッショナルが一丸となってここまで進めることができました。S耐を経て、今回の大切な第一歩を次につなげていけるようにしたいと思っています。

Ryota Kimishima
Ryota Kimishima

エンジン設計部 鳥取 涼太 (とっとり・りょうた)55号車の排気部品の設計担当。CO₂回収装置としての機能に加えて、レーシングカーとしての性能も担保すべく日夜開発に取り組んできた。

 

鳥取:

まだまだ、55号車に搭載したCO₂回収装置はシンプルなものなんです。回収量も少ないので、空冷で済みました。しかし、次のステップを目指すにあたっては、ここから回収量を増やしていかなくてはなりません。そのためには、水冷をはじめとしたより複雑な機構や、障害となる湿気を取り除く仕組み、さらにはお客様が回収したCO₂を簡単に取り出すための仕組みも必要になります。

ここからがまた、大変なんです。

Ryota Kimishima
Ryota Kimishima

スーパー耐久シリーズを完走し、もはや単なる夢物語ではないことを示したカーボンネガティブの未来。しかし、ここからがまた、新しいスタートなのです。

Ryota Kimishima
Ryota Kimishima

未来に曇りなく胸を張れるエンジン車に向けた彼らの旅路は、まだ始まったばかりです。

 

*1 11月15-16日開催、ENEOS スーパー耐久シリーズ2025 Empowered by BRIDGESTONE 第7戦 S耐FINAL大感謝祭 

*2 レース車両「MAZDA SPIRIT RACING 3 Future concept(55号車)」に「Mazda Mobile Carbon Capture」を初搭載し、欧州で実用化されているカーボンニュートラル燃料「バイオディーゼル燃料(HVO)」を使用して走行。レースでのCO2回収技術の公開実証実験を世界初の試みとして行った。

*3 マツダは現在バイオ燃料の一種である微細藻類由来の燃料について研究を行っています。詳しくはこちらの記事をご覧ください:JMS 2025「走るほど地球がきれいになる?」 MAZDA VISION X-COUPEが描く未来の走る歓び


本編映像

×

編集後記

 

映像制作、記事執筆にあたり、実験現場からサーキットまで、技術者たちと一緒にいて、気づいたことがあります。それは、どんなに上手くいかないことがあっても、全員が前向きにチャレンジし続ける空気があったことです。このプロジェクトを立ち上げた一人である原田さんは「エンジン車が好きな社員が前向きになれば」という願いも込めてこのプロジェクトを始めたといいます。

「未来永劫、エンジン車に後ろ指を指させはしない」その決意と共に、ものづくりに取り組む技術者たちや、その結晶であるクルマを見ていると、なんだかこちらまで前向きになってきます。

前向きな技術者たちと、快音を響かせるクルマが進む未来。きっとそれは、地球だけでなく、私たちも笑顔にさせてくれる。そんな未来に違いありません。


特集記事

JAPAN MOBILITY SHOW 2025「走る歓びは、地球を笑顔にする」マツダが描く2035年のモビリティの未来


JMS 2025「走るほど地球がきれいになる?」 MAZDA VISION X-COUPEが描く未来の走る歓び


JMS 2025「“親友”のようなクルマ?」 MAZDA VISION X-COMPACTが描く未来の人とクルマの関係


魂動デザインの未来を照らす二つの光 ―VISIONモデルで見えたマツダデザインの道標―


関連リンク

運転を愛すること、地球を愛すること   >

 

「クルマ」「人」「美しい地球」が共存できる未来を築く

Share
  • X
  • Facebook