MAZDA VISION X-COMPACT ―理想のデザインを形にするために、匠集団ハードモデラーと挑んだ共創のものづくり―

JAPAN MOBILITY SHOW 2025で注目を集めた「MAZDA VISION X-COMPACT(マツダ ビジョン クロスコンパクト)」。

“親友のような存在”をコンセプトにしたこのVISIONモデルでは、インテリアにおいても、愛着が感じられるのみならず、走りに没入できるクルマとの一体感を追求した空間を表現しています。

 

そのインテリア空間において、ひと際存在感のあるスポーティなシート。

このシート開発の裏側には、マツダのものづくりの精鋭たちがプライドをかけて生み出した“共創”のストーリーがありました。

 

デザイナーの妥協なき追求心、長年の経験で培われた熟練モデラーの技と若さあふれるフレッシュな感性——専門領域も世代も異なるプロフェッショナルたちがお互いの知見、創造力、ひらめきを総動員して完成させたシート開発の舞台裏をお届けします。


MAZDA VISION X-COMPACTのシート開発メンバー
MAZDA VISION X-COMPACTのシート開発メンバー

MAZDA VISION X-COMPACTのシート開発メンバー(左から)

長年の経験と技を磨いてきた“匠”ハードモデラー:藤木修(ふじきおさむ)

MAZDA VISION X-COMPACTのインテリアデザイン担当に抜擢された若手デザイナー:髙橋快勢(たかはしかいせい)

新しい感性とデジタルツールを武器にする若手ハードモデラー:安富大晟(やすとみたいせい)

現場を束ね、このシート開発の指揮を執ったベテランハードモデラー:橋本幸和(はしもとゆきかず)



「自転車のサドルのような軽やかなシートを作りたい」―― デザイナーとハードモデラーの共創の始まり

まずはインテリアデザインを担当された髙橋さんにお伺いします。MAZDA VISION X-COMPACTのシートに込めたデザインコンセプトを教えてください。

髙橋:

“自転車のサドルをイメージした、軽やかでスポーティなシート”をコンセプトにデザインしました。MAZDA VISION X-COMPACTは、街中を気軽に乗り回せるクルマなので、自転車のように“サッと乗って、すぐ走り出したくなる”感覚を大切にしています。そこで、縫い目をできるだけなくし、一枚の生地で身体をしなやかに包み込むような造形にチャレンジしました。


MAZDA VISION X-COMPACTデザインスケッチ
MAZDA VISION X-COMPACTデザインスケッチ

MAZDA VISION X-COMPACTデザインスケッチ

デザイン本部デザインクリエーションスタジオ:髙橋快勢
デザイン本部デザインクリエーションスタジオ:髙橋快勢

デザイン本部デザインクリエーションスタジオ:髙橋快勢

2021年入社。主にMAZDA2の用品架装PKG”SCI-FI”、MAZDA EZ-6、MAZDA EZ-60の内装デザインを担当後、VISIONモデルの制作活動に参画。


そのデザインアイディアを実際の形にするのがハードモデラーに託された役割ですよね。
そこでハードモデラーの藤木さんにお伺いします。このデザインデータを見たときの率直な感想を教えてください。

藤木:

デザインデータをひと目見た瞬間、これはなかなかの難題だと感じましたね。

デザイナーのリクエストは、しなやかな包み込みを表現するために一枚生地を使いたい。つまり、分割もせず、縫製ラインもないシートを実現させるということです。

一般的にシートは分割構造で仕上げていくので、これは到底簡単なことではありません。一枚の生地で立体成形するには、必ずしわが発生してしまうからです。

ただ、決して「できない」とは答えませんでした。実際に形にしてみることで、そこから見えてくる課題や気づきがあるからです。そこから、幾度もの試作を重ねながら答えを探る日々が続きました。


デザイン本部クリエイティブスタジオ:藤木修
デザイン本部クリエイティブスタジオ:藤木修

デザイン本部クリエイティブスタジオ:藤木修

1981年入社。エクステリア、インテリアのアドバンスデザイン含むモデル制作全般の業務を経験。匠ハードモデラーとして幅広く活躍し、2015年「マツダ RX-VISION」、2017年「マツダ VISION COUPE」、2023年「MAZDA ICONIC SP」、2025年「MAZDA VISION X-COUPE」などの内装の仕立てを手がけた。


可能性を閉ざすことなく、挑戦への道を選んだことが、マツダのものづくりに対する飽くなき挑戦の精神を象徴していますね。

髙橋:

当初は、僕の中でデザインへの理想ばかりが先行していました。しかし、ハードモデラーの皆さんが試行錯誤を重ねた試作品を目にする中で、物理的な制約や素材特有の性質を学ばせてもらいました。そこからは、実現に向けて同じ目線、同じ想いを共有しながら作業を進められるようになりました。

 

よりよいものを創り出していくために、デザイナーとモデラーが一体となり、アイディアや意見をぶつけあい、諦めずに挑戦していく風土はマツダならではの文化だなと感じます。


試行錯誤のシート開発を振り返って笑みがこぼれる高橋(左)と藤木。
試行錯誤のシート開発を振り返って笑みがこぼれる高橋(左)と藤木。

試行錯誤のシート開発を振り返って笑みがこぼれる高橋(左)と藤木。

数々の試作品を前に談笑する。(左から藤木、髙橋、安富)
数々の試作品を前に談笑する。(左から藤木、髙橋、安富)

数々の試作品を前に談笑する。(左から藤木、髙橋、安富)

髙橋:

また今回このシートは外部パートナーに製作を委託することなく、完全な社内開発で進めていくというプロジェクトでしたが、内製におけるレベルの高さも感じました。ハードモデラーのみなさんの技術力やクオリティの高さは非常に信頼をもてますし、内製だからこそ実現できた仕上がりだと思います。

パーツは除く


継ぎ合わせの縫製ラインのない一枚の生地から作り上げたMAZDA VISION X-COMPACTのシート。
継ぎ合わせの縫製ラインのない一枚の生地から作り上げたMAZDA VISION X-COMPACTのシート。

継ぎ合わせの縫製ラインのない一枚の生地から作り上げたMAZDA VISION X-COMPACTのシート。


「匠集団」とよばれるハードモデラー ―― 伝統と革新の両立


ハードモデラーは板金、塗装、加工、縫製など、各分野で究極のスキルをもつ匠たちが集う精鋭部隊として知られていますよね。

橋本:

コンセプトカーは、マツダの将来のビジョンをお客さまに直接目にしていただくクルマなので、ベテランモデラーであってもいまだにワクワクし、より一層モチベーションが高まるプロジェクトです。

また若手モデラーにとっても憧れの舞台であり、大きな成長機会につながります。

今回はその経験を若手にも肌に感じてほしいと考え、ベテランから若手まで幅広い世代のメンバーが揃うチームを構成しました。

デザイン本部デザインイノベーションスタジオ デザインモデリンググループ:橋本幸和
デザイン本部デザインイノベーションスタジオ デザインモデリンググループ:橋本幸和

デザイン本部デザインイノベーションスタジオ デザインモデリンググループ:橋本幸和

1985年入社。新車開発におけるリードモデラーとして、商品検討や承認プロセスに用いられるハードモデル製作を主に担当。2015年には「マツダ LM55 ビジョン グランツーリスモ」フルスケールモデル制作を手がける。

安富さんは若手モデラーとして、憧れの舞台であるコンセプトカー製作に携わることに対して、どのような想いがありましたか?

安富:

最初のミーティングは本当に緊張したのを覚えています。ベテランの方たちが次々とアイディアを出す中、まずはついていくので必死でしたが、実際の作業を進めていく中で自分なりの考えや意見を発言できるようになりました。意見を言えば必ず耳を傾け、実践させてくれる環境なので、僕の中でもだんだんと自信が芽生えていく感覚がありました。

デザイン本部デザインイノベーションスタジオ デザインモデリンググループ:安富大晟
デザイン本部デザインイノベーションスタジオ デザインモデリンググループ:安富大晟

デザイン本部デザインイノベーションスタジオ デザインモデリンググループ:安富大晟

2020年入社。クレイモデラーとして、Large商品のシートのクレイ造形の経験を経た後、2023年よりハードモデルグループに移籍。新車開発におけるシートやインパネ、ドアトリムの縫製に携わる。

安富:

作業を行う際、一挙手一投足まで指示されるようなことはありません。自分で考える余白があるんです。その分、果たすべき責任もありますが、それが僕にとってハードモデルグループで働くやりがいとなっています。

藤木(左)をはじめとするベテランモデラーのアイディアに耳を傾ける安富(中央)
藤木(左)をはじめとするベテランモデラーのアイディアに耳を傾ける安富(中央)

藤木(左)をはじめとするベテランモデラーのアイディアに耳を傾ける安富(中央)

藤木:

若い人には早いうちから経験を積ませる。失敗も含めて学ばせるのがマツダ流です。

若手には「萎縮しないでほしい」といつも伝えています。できないではなく、やってみようという気持ちを大事にしてほしいと思っているからです。

だから安富くんのように新しいことにどんどん挑戦できる若手が育つんです。

橋本:

私も、若手を指導するうえで「自由と責任」のバランスを常に意識しています。基本のルールは教えますが、その人らしさを尊重するのです。一人ひとりが「自分らしい仕事」を早く見つけることが大切だと考えています。

若手社員からベテランの匠まで、幅広い世代のメンバーで構成されたチームを牽引した橋本。
若手社員からベテランの匠まで、幅広い世代のメンバーで構成されたチームを牽引した橋本。

若手社員からベテランの匠まで、幅広い世代のメンバーで構成されたチームを牽引した橋本。


安富:

試行錯誤の開発を進めていく中で、しばらく解決策が見出せない苦しい時期もありましたが、「少しでも糸口が見つかれば迷わず自分で作ってみていい」と言っていただきました。若手でもアイディアを出し、実際に作って検証できる環境はとてもありがたいです。

MAZDA VISION X-COMPACTのシートは一枚布で仕上げるデザインながら、ボディカラーの「ビオラレッド」と呼応する赤いステッチが印象的です。縫製のためのステッチではなく、デザイン要素としてあえて刺繍としてのステッチを施す工程は安富さんが担当されたのですね?

印象的な赤のステッチは、シートのデザイン要素としてあえて施されました。

安富:

この作業を行う際には、3Dデータから2Dパターンを展開するアパレル用ソフトウェアを導入しました。これにより刺繍位置や布の張り具合のシミュレーションが可能になり、ソフト上で刺繍の位置や生地の伸び具合を確認できるようになったのです。

つまり、デジタルで狙いを定めていく、ただ最終の仕上げは人の手による“感覚”で決めていくイメージですね。

しかし、いざ本番のステッチ作業となると、布の表面にガイドとなる目印などをつけたりすることがほぼできない状況のなか、一針一針ズレのないように刺繍を進めていく必要がありました。少しでもステッチ位置がズレれば表情が崩れてします。最初は本当に緊張しました。


一針のズレも許されない刺繍作業。真剣な眼差しでシートの布地にミシンの刺繍針を入れていく安富。

藤木:

このシートのステッチは縫い合わせではなく「見せる刺繍」です。つまり最初から最後まで、一針も蛇行せず、始まりと終わりをピタリと合わせることが不可欠だったのです。

 

今の若い世代は吸収力が高く、最新のデジタルツールを使いこなして効率的に作業を進めることができます。

そこは我々としても大きな刺激になっていますね。

 

でも、最終的な仕上げはやはり「手」が重要です。その両立ができてこそ本当のモデラーと言えるのだと思います。伝統と革新——それがマツダのものづくりの根幹をなす考え方だと思います。

 

今回のシート製作はまさに、デジタルと職人の勘が組み合わさった理想のチームワークによって可能になったと思います。若手の柔軟な発想と、長年の現場感覚。このふたつを融合させて初めて、本当に良いものづくりができたと確信しています。

ステッチの仕上がりを改めて確認する安富。

若手には「萎縮せず育ってほしい」と語る藤木(左)。

シートに命を吹き込む ―― 1ミリのズレも許されない緊張の瞬間

橋本:

今回のシート構造はかなり複雑で、開発期間も非常にタイトでした。

ギリギリの状況の中、プロジェクト初期に携わっていた仲間が、パーツ構成から組付けプロセスまですべて分析し、映像で残してくれていました。その指南書をもとに、フロント、リアシートのパーツの作りこみ・組み立てをチーム全員一丸となってなんとか乗り切ることができました。

このプロジェクトに関わってきた一人ひとりが残してきた努力や知見が受け継がれ、自分たちの後押しをしてくれたと心から感じます。


まさに技術、記憶、そしてものづくりへの熱い想いが伝承されている証左ですね。表皮をシートに貼り付ける作業は本番一度きりだったと伺いました。どのような工夫や苦労があったのでしょうか?

藤木:

特に苦労したのはシートセンター部の制作です。この部位は他の箇所とは異なる要求があり、新たな手法を探し出す必要がありました。メンバーと一緒に試行錯誤とテストを重ねる中で、表皮をシート全体に均一な張力で貼り込むことが重要だと分かりました。部分的に引っ張る方法では、どうしてもシワが発生してしまうからです。

本番に臨む前には、メンバー全員で事前テストとして貼り込み作業を行い、貼り方の確認や改善点を出し合いました。そこで得られた知見をもとに手順を確かなものにしたうえで、本番に挑みました。

本番は一度きりの作業です。失敗は許されません。

 

常に緊張感が走りつつも、お互いが声をかけあい、作業者の意図を汲み、それぞれが自分の役割を瞬時に判断し、スピーディかつ柔軟に作業を進めます。現場で培ってきた感覚と信頼があってこそ成り立つ、まさに阿吽の呼吸の作業ですね。


緊張高まるシート生地の張り込み風景。まるで手術室のオペのようにミリ単位の誤差も許されない難しいタスクを手作業でこなしていく。

まるでオペのような張り込み作業ですね。1ミリのズレも許されない、プレッシャーと緊張が連続する作業だったと思います。

安富:

張り込みが終わった瞬間、それまでの緊張の沈黙が解け、全員の安堵と喜びの笑顔が一気に広がったのを覚えています。

あの時の安心感と達成感は忘れられません。あの現場で世代を超えた絆が築かれた感覚です。

藤木:

後で記録写真を見返したら、自分がものすごい笑顔になっていることに気づきました(笑)。

何年やってもひと仕事終わるとやっぱりホッとするんですね。緊張が一気に解けて素直に喜んでいる自分がそこにいたんだな、と思います。

緊張の張り込み作業を終えて満面の笑みでシートの完成を喜ぶ安富(左)藤木(右)。

JAPAN MOBILITY SHOWでは完成したMAZDA VISION X-COMPACTが展示されました。実際にご覧になったお客さまの反応はいかがでしたか?

藤木:

ドアを開けた瞬間、笑顔で足を止める方、インテリアが見える位置まで近づいてこられる方、その場から離れずじっと眺めている方など、多くの方に興味を持っていただいた印象です。そうした様子から、年齢や性別を問わず、インテリアデザインの魅力を感じとっていただけたのではないかと感じています。

髙橋:

垣間見える艶のある赤いフレームや、シートの中央の帯にさりげなく隠されたMAZDAの文字について、遊び心があってかわいいといったご意見もいただきました。

私が常に大切にしているのは、お客さまがマツダ車に乗ることで「走る歓び」を感じていただき、日々の生活がより豊かになることです。今回のビジョンモデルは、そのゴールを達成するためのデザインをピュアに体現しています。

そうした想いを感じとっていただけたなら嬉しいですし、お客さまから寄せられた一つひとつの声を、今後のものづくりにしっかりと活かしていきたいと思います。


今回完成したMAZDA VISION X-COMPACTを前に、開発当時のエピソードを振り返っていただきました。改めてこの一大プロジェクトを終えて感じた想いをお聞かせください。

髙橋:

やはりマツダのものづくりのレベルの高さを感じます。自分の思い描いた理想が、匠集団の手を通して形になる。そのクオリティの高さに本当に驚きました。

今回のビジョンモデル制作を通して得た学びや経験を大切にし、今後お客さまに直接届けていく量産モデルにもしっかり反映していくことが私の役割だと感じています。

橋本:

当初は不安もありましたが、今回のシートが完成した瞬間、その不安は確かな誇りへと変わりました。

私たちマツダの内製技術は、今も健在です。“我々はできる”という手ごたえを改めて心に刻みました。

過酷な状況の中、世代を超えたコラボレーションで成し遂げましたが、この試みを次世代に引き継いでいけたらうれしいですね。今いる若手が牽引役となり、自分たちの才能や技能を発揮し、続く世代に伝承していってほしいです。

藤木:

マツダのハードモデラーは代々続く「匠集団」です。各分野のプロフェッショナルが互いに腕を磨き、完成へと導く。どこにも真似できない文化であり、それが脈々とうけつがれているのです。

安富:

今の先輩方が体現している「決して妥協しない姿勢」を自分も受け継いでいきたいと思います。そして、いつか自分が一人前の匠へと成長できたとき、続く後輩にも同じことを伝えていきたいと思います。


長時間のインタビューを終え、MAZDA VISION X-COMPACTを前に記念撮影。


編集後記

 

デザイナーが描いた「一枚布のシート」という理想に対し、「匠集団」と呼ばれるモデラーたちが熟練の技と創意工夫で応えてみせた今回のプロジェクト。ここには、マツダが追求して止まない「ものづくり」を支えるふたつの共創の物語が凝縮されています。

ひとつは、唯一無二の美しさの実現を目指した、デザイナーとモデラーの領域を超えた連携です。互いに妥協を一切許さず、常に最良を模索していく姿勢が、当初は困難に見えた造形を可能にしました。そしてもうひとつは、ベテランの熟練技と若手のデジタル技術を融合した、世代を超えるコラボレーションです。

飽くなきこだわりと向上心をもって挑む彼らの姿から、伝統を継承しつつ、次世代への進化を続けていくマツダの内製技術の強さと、未来への可能性を感じ取ることができました。



MAZDA | JAPAN MOBILITY SHOW 2025

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