R26B 4ローターロータリーエンジン

R26B 4ローターロータリーエンジン

レース用ロータリーエンジン(RE)の変遷

レース用ロータリーエンジン(RE)の変遷

R26B型4ローターロータリーエンジン(1991)

排気量 ……… 654cc x4ローター
最高出力 ……… 700 PS@9,000rpm
最大トルク ……… 62kg-m@6,500rpm

マツダ787Bに搭載されているエンジンは、マツダR26B型4ローターロータリーエンジン(RE)です。このエンジンの元となったのは、1973年に2代目ルーチェの上級グレード用に開発された排気量654cc x2ローターの13Bエンジンです。その後、13Bエンジンは2代目コスモやルーチェレガート、ロードペーサー、RX-7などにも展開され、REラインアップの主要パワーユニットとなっています。6PI、希薄燃焼システムやターボ化などを経て2012年に生産終了となったRX-8に搭載された13B MSP型RENESISエンジンまで、約40年の間作り続けられました。

モータースポーツ用13Bエンジンは、1970年代の富士GCシリーズにペリフェラルポート吸気仕様が採用され、小型コンパクトながら300 PSの高出力と抜群の信頼性を誇って多くのプライベートレーサーに愛用されていました。ルマンでは、1979年のRX-7 252iで初めて採用され、1985年のマツダ737Cまで搭載されており、その後の3ローターエンジン、4ローターエンジンも4つあるローターハウジング(レシプロエンジンのエンジンブロックとシリンダーヘッドに当たる)や各ローター(同じくピストンに相当)などはこの13Bと同サイズ・同形状となっています。

初の4ローターエンジンの13J型も短期間に組み上がりましたが、出力は単純積み上げの600 PSには届かず、しかも軽量小型でコンパクトなパッケージがREの利点でしたが、13Jエンジンは長く重くなってしまいます。それでも数ヶ月でエンジン前長を大幅に短縮し、軽量化した改良型13Jエンジンを開発しています。しかし、急造が祟って1988年は4ローターエンジンを搭載した新開発のマツダ767は幾多のトラブルに見舞われ大きく遅れ、総合17位と19位という不本意な結果となりました。

翌年の1989年をもってREがルマンに出場できなくなる新ルールが発表されたため、マツダと車体を開発するマツダスピードは力を合わせて、新型マツダ767Bを開発しました。吸排気形式を改め、新素材などを多用した結果、13J改(89)型エンジンのパワーは前年型より10%以上出力アップが図られました。その結果、出場した3台が全車完走し、7位、9位、12位という結果を達成しました。しかし、まだ総合優勝を狙えるには力不足であることもはっきりしました。

出場チームの準備が整わなかったため新ルールの適用は1年先延ばしとなり、マツダ/マツダスピードは1990年には「勝つ意志」をもってルマンに挑むこととなります。吸気方式をさらに熟成させ、点火方式を改良し、燃料の効率的活用を図るための制御方式を導入するなどの工夫を凝らし、4ローターREのエンジンパワーはついに700 PSにまで出力向上を果たしています。しかし、コース形状が大きく変わったこともあり、レースでは不具合が多発して優勝を果たすことができませんでした。

これで終わりかとマツダ陣営は落胆しましたが、翌年から施行される新ルールでのルマン24時間には、旧仕様のレースカーも出場できることがわかり、再び開発を加速します。1991年式エンジンは、90年モデルよりもよりきめ細かい制御ができるリニア可変吸気システムを搭載しており、吸気用エアホーンは、スロットル操作に連動してアクチュエーターが作動し、長さが伸縮するようになっています。長い状態が低速回転状態でトルクを厚くし、高速になるに従ってエアホーン長は短くなり、パワー重視のセットとなります。インジェクターはエアホーン噴射からペリフェラル噴射式に変更され、燃料噴射方式も改善。点火方式は各気筒3プラグ方式を採用する等徹底的に改善。車体側も考えられる限りのアップデートを施した結果、メルセデスやジャガー、ポルシェやプジョーといった欧州の強豪と互角に戦えるマシンが完成。事前に24時間の耐久テストも実施し、万全の体制でルマンに臨んだ1991年に、念願のルマン総合優勝を果たすことになります。

13B型エンジン構成部品

13G型3ローターエンジン

13改(89)型4ローターエンジン

こうしてレース用ロータリーエンジンは短期間に大きく前進する変遷を遂げ、わずか6年間で300 PSから700 PSにまでパフォーマンスアップを図ることができました。REという他に例のない技術を極めるため、知恵の限りを尽くし、何があっても諦めない「飽くなき挑戦」の精神でエンジンと車体の開発にあたった技術者たちの執念は、見事に結実しました。